老後の生活を支える公的年金。老齢年金の場合、受取り開始年齢に達すると受給権が発生し、権利を行使すると、受取り開始となります。しかし人による処理のため、ミスは100%起きないとは言い切れません。なかには、取り返しがつかないようなミスが生じることもあるようです。
日本年金機構「年金の繰下げ」処理のミスで〈500万円〉の過払い…たとえ受取人死亡でも「遺族に返還義務」の悲劇 (※写真はイメージです/PIXTA)

あら、いつもより年金が多いわ…「ラッキー」と思っていたら

年金の受取りに関して気を付けたいのが、年金の過払い/未払い。

 

――えっ、そんなことあるの?

 

と思うかもしれませんが、人間のやること、ミスが絶対ないとは言い切れません。日本年金機構『事務処理誤り等について』で、今年6月の報告についてみていくと、令和6年度分の事務処理等の誤りが10件発生。さらに令和5年度分、令和4年度分……と合わせていくと、計98件のミスが発覚しています。その数が多いか少ないかは、評価は分かれるところ。ちなみに公的年金受給者数(延人数)は、令和4年度末現在で 7,709 万人とされているので、そこから考えるとミスの数は非常に少ないといえそうです。

 

ただミスによって特に影響のないものから、甚大な影響のあるものまでさまざま。ミスのうち、給付関連で過払いとなっていたのは15件、890万9,720円。1人あたり59万3,981円、余計に受け取っていました……と発覚しました。また未払いは12件、1,514万0,006円。1人あたり126万1,667円、払うべきものを払っていませんでした……と発覚しました。

 

未払いであれば後からもらえるのでまだいいですが、過払いは厄介です。数ヵ月後、数年後、過払いが発覚。当然、受け取った側はすでに使ってしまっているでしょう。

 

――多く払った分、返還してください。

――えっ、使ってしまってもうないですよ

――しかし、法律上、返還いただく必要があるんです

 

*日本年金機構の事務処理誤りによる年金の過払いについては、法律上の原因がなく支払われたものであり、民法(明治29年法律第89号)に基づく不当利得として返還を求める必要がある

 

報告書の中でも、老齢年金の繰下げ処理の誤りで、1名の過払いが500万円以上になっている事案が報告されています。ミスだからとスルーされるわけではなく、法律上、過払い分は返還しなければなりません。さらにすでに本人が亡くなっていれば、「戸籍上の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹」と、法律上の相続人が返還の義務を負います。まさに寝耳に水の話が、自身の死後、遺族に振りかかる……そんな悲劇が起こるかもしれないのです。

 

事務処理によって、思わぬ負債を抱えてしまう……受給者にそれほどの落ち度がないとはいえ、年金記録をチェックしていれば防げること。万が一のことが起きないよう、あらゆる年金記録はきちんとチェックすることが重要です。

 

[参照]

日本年金機構『老齢年金の請求手続き』

日本年金機構『事務処理誤り等について』