「仕事」と「親の介護」との両立。しかし重い介護負担により離職を考えるケースも珍しくないようです。ただ離職は大きなリスクを伴うため、「親を老人ホームにあずける」という選択をするケースも。ただ、それで問題が解決するわけではないようです。
置いていかないで!と絶叫する年金15万円・82歳母を振り切って…42歳長女「老人ホーム」の選択をいまだに後悔「私は許されますか?」 (※写真はイメージです/PIXTA)

老人ホームの見学では、はしゃいでいた母親だったが…

それから色々と調べてみると、自宅から車で20分ほど走ったところにある、認知症患者を受け入れてくれる有料老人ホームを発見。早速問合せをして、見学予約を入れます。

 

見学の際には母親も連れていきます。母親は「スゴイねぇ」を繰り返すばかりでしたが、どうやら気に入った様子。ここの入居費用は、一時金が300万円、月額費用は居室の設備の違いで、15円から35万円まで幅があります。

 

――料理をするわけではないので、必要最低限の設備で大丈夫か

 

母の年金は月15万円。貯蓄は1,500万円ほどあります。一時金は貯蓄から払うとして、月額費用は年金受取額を超えてしまう……少々悩みどころではありましたが、自宅からのアクセスも考えて、母をあずけることに決めたといいます。

 

そして入居の日。母親は、どうやら自分が老人ホームに入所することは理解していないよう。「車でお出かけー」とウキウキ気分でいます。

 

そして入所する老人ホームにつくと、「この前来たところー」と大声ではしゃぎます。どうやら一度来たことがあることは覚えているよう。

 

ひと通り、施設の人と話し終えると、いよいよ母親をあずけます。

 

――よろしくお願いします

 

そう言って、握っていた母親の手を離そうとしたとき、逆にぎゅっと握り返されて、母親は大声で泣きだしました。

 

――いや! 置いていかないで!

――手、離さないで!

 

何も言っていないのに、察したのでしょう。“4歳のみっちゃ”は勘が鋭かったようです。

 

――大丈夫だよ、手、離そうね

 

数名の介護スタッフによって連れていかれる母。「やだ、やだ!」という声が、姿が見えなくなっても聞こえてきます。「入所の際、よくあることなので、気にすることはないですよ」と、施設のスタッフさんに言われて、少し気は楽になりましたが、やはり、気が晴れません。

 

――本当に、この選択以外、なかったのか

 

後日談。

 

ホームに入所し、母親の子ども返りは徐々に収まっていきましたが、その分、笑うことが少なくなっていきました。最近は理子さんが遊びに来ても、わずかに反応するだけ。子ども返りして騒いでいたころとは180度違います。

 

――もう、4歳のみっちゃんには、会えないんですね……

 

とポツリ。すっかり元気をなくし、目にも力をなくしてしまった母親。誤った選択をしてしまったのではないか、自責の念に襲われます。

 

――私、許されるでしょうか……

 

自問自答する日が続きます。

 

[参考資料]

厚生労働省『令和4年賃金構造基本統計調査』

厚生労働省『令和4年就業構造基本調査』