老人ホームの見学では、はしゃいでいた母親だったが…
それから色々と調べてみると、自宅から車で20分ほど走ったところにある、認知症患者を受け入れてくれる有料老人ホームを発見。早速問合せをして、見学予約を入れます。
見学の際には母親も連れていきます。母親は「スゴイねぇ」を繰り返すばかりでしたが、どうやら気に入った様子。ここの入居費用は、一時金が300万円、月額費用は居室の設備の違いで、15円から35万円まで幅があります。
――料理をするわけではないので、必要最低限の設備で大丈夫か
母の年金は月15万円。貯蓄は1,500万円ほどあります。一時金は貯蓄から払うとして、月額費用は年金受取額を超えてしまう……少々悩みどころではありましたが、自宅からのアクセスも考えて、母をあずけることに決めたといいます。
そして入居の日。母親は、どうやら自分が老人ホームに入所することは理解していないよう。「車でお出かけー」とウキウキ気分でいます。
そして入所する老人ホームにつくと、「この前来たところー」と大声ではしゃぎます。どうやら一度来たことがあることは覚えているよう。
ひと通り、施設の人と話し終えると、いよいよ母親をあずけます。
――よろしくお願いします
そう言って、握っていた母親の手を離そうとしたとき、逆にぎゅっと握り返されて、母親は大声で泣きだしました。
――いや! 置いていかないで!
――手、離さないで!
何も言っていないのに、察したのでしょう。“4歳のみっちゃ”は勘が鋭かったようです。
――大丈夫だよ、手、離そうね
数名の介護スタッフによって連れていかれる母。「やだ、やだ!」という声が、姿が見えなくなっても聞こえてきます。「入所の際、よくあることなので、気にすることはないですよ」と、施設のスタッフさんに言われて、少し気は楽になりましたが、やはり、気が晴れません。
――本当に、この選択以外、なかったのか
後日談。
ホームに入所し、母親の子ども返りは徐々に収まっていきましたが、その分、笑うことが少なくなっていきました。最近は理子さんが遊びに来ても、わずかに反応するだけ。子ども返りして騒いでいたころとは180度違います。
――もう、4歳のみっちゃんには、会えないんですね……
とポツリ。すっかり元気をなくし、目にも力をなくしてしまった母親。誤った選択をしてしまったのではないか、自責の念に襲われます。
――私、許されるでしょうか……
自問自答する日が続きます。
[参考資料]