高齢化と共に家族が認知症となるケースは増加。その介護負担は重く、QOLを高めるためにも施設での生活を選択するケースも増えています。しかし「老人ホーム」に入ったら安心というわけにはいかないようです……。
面倒をみきれません…年金17万円・77歳父「老人ホームから三行半」、転居先決まらず、家族も完全無視の絶望 (※写真はイメージです/PIXTA)

入所から3ヵ月…老人ホームから1本の電話

立地も予算もぴったりの老人ホームに父親が入所した日。仏壇で微笑む母親に「ごめんね、しばらく離れ離れだね」と報告。久々に落ち着いた時間を過ごしました。そんな日がずっと続くものと考えていました。

 

しかし、老人ホームに入所してから3ヵ月ほど経ったときのこと、1本の連絡が入ります。今週末、老人ホームに来てほしいという内容。なにごとだろう? と週末に訪れると、思わぬことを切り出されます。

 

――すみません、うちでは面倒をみきれません

――退所していただけますか?

 

老人ホームでよくある主な退去要件は以下の4つです。

 

1.長期入院

2.他の入居者やスタッフへの迷惑行為

3.費用の支払いが難しくなった場合

4.老人ホームの運営会社の事情

 

博さんの場合、頻繁に大声をあげる。さらに最近は意図的ではないにしろ、暴力をふるうこともあるのだといいます。博さんは元レスリング選手、力が強く、ほかの入居者に怪我をさせてしまったそうです。

 

――でも認知症の患者さん、受け入れているじゃないですか。

 

智子さんがそういったところで、ほかの入居者に怪我をさせたことに変わりはありません。もはや、退去せざるを得ないといった状況です。

 

兄や弟に「お父さん、老人ホームを退去しなきゃいけなくって」と報告&相談。しかし「えっ、うちは無理だよ」「そっちでやっちゃってよ」などと、どこか他人事。家族なのに、まったく充てになりません。さらに伯父や伯母にも電話で相談してみたところ、ほぼ無視に近い形で切られたといいます。

 

――なんでみんな、他人事なのよ!

 

ケアマネージャーに相談しながら転居先を探すものの、なかなか決まらず……退去理由が父親の暴力というところがかなりのマイナス要因で、「すみません、うちでは面倒は見られません」と、何回も何回も断られ、時間だけが過ぎていってしまいます。

 

退去勧告から退去までは平均3ヵ月。もうすぐ、その期限です。

 

――もう、なんでどこもダメなの!

 

絶望感に襲われる智子さん。最悪、また昔のように自宅で介護するしかない……覚悟を決めなければいけないと考えているといいます。

 

老人ホームは一度入ると終身利用ができると考えがちですが、そんなことはなく、退去勧告はよくある話。入居時にきちんと退去要件を確認しておくことが大切です。

 

[参照]

東京都福祉局『令和4年度認知症高齢者数等の分布調査』

厚生労働省『令和4年国民生活基礎調査』