周辺に住む人たちの健康な生活に欠かせない「地域のクリニック」。混雑することも多いため、対策として「時間予約制」を取っているところも少なくありません。しかしながら、そうした対策が裏目に出て、患者と医者の双方に強いストレスがかかることもあると、医師の松永正訓氏はいいます。そこで本稿では、松永氏による著書『患者の前で医者が考えていること』(三笠書房)から一部抜粋し、地域のクリニックが抱える「待ち時間」と「診察時間」の問題について解説します。
「3時間待ちの3分診療」…地域のクリニックが混雑するワケ
「3時間待ちの3分診療」という言葉を聞いたことのある方は多いと思います。この言葉は、主に大病院での診療形態を指して使われていました。
現在はどうでしょうか。大学病院などの大病院は、待ち時間の短縮にかなり努力しており、比較的、病気の重くない患者さん、病状の安定している患者さんは、大病院から地域の開業医へ振り分けられるようになりました。
その結果、地域のクリニックはますます混雑している状況にあります。それに対して、開業医はどういう対応を取っているのでしょう。
それは、やはり予約制です。新規開業のクリニックで予約制のシステムを取っていないところは相当少なくなっています。では、予約制とは具体的にどういうものでしょうか。
順番制、時間制は問題だらけ!?
まず一つは、順番待ちのシステムです。スマホなどを利用して、そのクリニックに予約を入れます。すると患者さんには〇〇番という順番が案内されます。そして予約サイトを見ると、「ただいま、〇〇番の患者さんを診察中」と表示が出てきます。患者さんは自分の順番が近いと分かると、クリニックに行けばいいのです。
ところがこのシステムというのは、多くのクリニックが採用している割にはうまく機能していないのが実態です。なぜでしょうか。
それは、順番を守って、自分の番の少し前にクリニックへ行くという行動を取らない患者さんがけっこういるからです。その結果、クリニックが閑散としている時間帯が生まれたり、一気にクリニックが混む時間帯が生まれたりします。
実際、私の友人の開業医で、このシステムを途中でやめてしまった人が何人かいます。つまり、混雑緩和の切り札になっていないのです。
そこでもう一つの方法が、大学病院と同じように、時間制で患者さんの予約を取るというものです。むしろ現在ではこちらのほうが、開業医の間でも優勢になっている印象があります。
ただ問題は、1時間に何人の患者さんを診る設定にするかです。1人5分? すると、1時間に12人ですよね。午前に3時間、午後に3時間診療すると、72人しか診ることができません。これでは地域医療の責任を果たせません。