クリニックや病院の混雑によって診察時間の短い状態が続く昨今。この問題の一つの解決策として「町のドラッグストアを利用すること」が挙げられます。とはいえ「きちんと診察を受けたうえで処方された薬の方が効くはず」と考える人もいるでしょう。では、実際に病院で処方される薬と市販薬とでは、どれほどの効果の差があるのでしょうか。本稿では、医師の松永正訓氏による著書『患者の前で医者が考えていること』(三笠書房)から一部抜粋し、2つの薬の違いについて解説します。
市販薬と処方される薬の違いって?―時間を取るか、効能を取るか
クリニックや病院が混雑し、診察時間が短い状態に対する一つの解決策は、町のドラッグストアを利用することです。私のクリニックも2023年の初夏に患者さんが異常に増えたため、ホームページでドラッグストアの活用を呼びかけたことがあります。
ドラッグストアは夜遅くまで、あるいは24時間営業しているところも多々あります。ただし、薬剤師さんは日中しかお店にいないケースもあるので、薬の種類によっては薬剤師さんがいないと買えないものもあることは知っておいたほうがいいでしょう。
では、医者が出す薬とドラッグストアの薬は同じものなのでしょうか? 答えは非常に微妙です。詳しく説明していきましょう。
総合感冒薬ならではのデメリット
一般的に、ドラッグストアで売られている薬は、薬品量が少ない傾向にあります。みなさんがよく購入する総合感冒薬を見てみましょう。
よく「のどの痛みに」とか「つらい咳に」とか、目的に合わせた薬が販売されていますよね。でもこうした総合感冒薬は、「のどの痛みに」と謳っていてもそれ以外の成分がたくさん含まれています。
もし、私のクリニックに患者さんが「のどが痛い」と言って受診し、それ以外に何の症状もなければ、のどの痛みを緩和するトラネキサム酸だけを私は処方します。
しかし、総合感冒薬では、トラネキサム酸以外に、6~7種類の薬品が入っています。鼻症状の薬も入っているし、咳止めも入っているし、気管支を広げる薬も入っているのです。さすが総合感冒薬ですね。ただ、トラネキサム酸が入っていることを前面に押し出して謳っているわけです。しかも、その肝心のトラネキサム酸が、私が処方する量の半分なんです。
別の薬を見てみましょう。「つらい咳に」です。こちらの総合感冒薬には、咳の原因となる痰切りが含まれています。カルボシステインです。みなさんにはムコダインという名前でよく知られているかもしれません。その量を見てみると、やはり私が処方する量の半分です。
市販薬は一般的に薬の量が少ない傾向があります。どんな薬でも「クスリはリスク」ですから、安全を見込んでいるのかもしれません。
それから、ビタミンB1とかビタミンB2とか、風邪に対して医者が普通は処方しない成分も入っています。こうした成分に効果があるのか、私は処方した経験がない(そもそも感冒に保険適用がない)ので、何とも分かりません。また、鼻症状を緩和する成分には眠くなる副作用があります。これはちょっといただけないと思います。