周辺に住む人たちの健康な生活に欠かせない「地域のクリニック」。混雑することも多いため、対策として「時間予約制」を取っているところも少なくありません。しかしながら、そうした対策が裏目に出て、患者と医者の双方に強いストレスがかかることもあると、医師の松永正訓氏はいいます。そこで本稿では、松永氏による著書『患者の前で医者が考えていること』(三笠書房)から一部抜粋し、地域のクリニックが抱える「待ち時間」と「診察時間」の問題について解説します。
患者によってバラつく診察時間
患者さんの病状はいろいろで、血圧の薬をずっと飲んでいる人もいます(私もそう)。こういう場合、特に込み入った診療は不要です。医者が「お変わりありませんか?」と尋ねて、患者さんが「変わりないです」と答えて終わってしまうこともあります。
そうすると、診察は1分で終わってしまうこともあります。患者さんの中にも「薬だけほしい」と思ってクリニックを受診している人もいます。日頃から自宅で血圧を測定している人は、わざわざクリニックで血圧を測ってほしいとは思いません。
ちなみに、以前はよく、クリニックの受付に「薬だけ」・「診察」という2つの箱が置かれており、診察を希望しない患者さんは「薬だけ」の箱に診察券を入れるという受診の仕方がありました。実はこれは、医療法的にはNGです。
医者は患者さんを診察しないで薬を出すことは許されていません。厚生局からの指導の徹底もあり、最近はそういうクリニックはほとんどないと思います。ですが、このスタイルは、医者が楽をして報酬を得ているというよりも、患者さんのニーズでもあるのです。薬だけほしい患者さんはけっこう多いと思います。
その一方で、診察に時間がかかる患者さんもいます。たとえば、腹痛。それなりの強い痛みであれば、X線撮影をしたり、超音波検査をしたりする必要があるかもしれません。そうすると、診察時間は15分以上になることもあります。個人的な話をすると、うちのクリニックには発達障害の子がよく来ますので、長いときは一人に1時間話をすることもあります。
そうなると、たちまちクリニックは混雑します。予約した時刻に診てもらえないと、患者さんは5分待たされただけでも不満になります。クチコミサイトにクレームを書かれたりします。
ですから、1時間に何人診る設定にするかは、かなり悩ましい問題なのです。
こんなに待たせてしまったのに……
順番待ちにしても、時間制にしても混むときは混みます。医者には患者さんが何人待ちなのか、電子カルテの画面から分かりますので、待ち患者が増えてくると猛烈に焦ります。特に駐車場の広くないクリニックでは、患者さんが溢れるのではないかと、さらに焦ります。
こういう状況では、一人の患者さんに丁寧に説明するということはどうしてもできなくなります。診断の所見を早口でパパッと説明し、「薬を出しておきますね」で終わってしまうのです。
患者さんから見れば、「こんなに待ったのにこれだけ?」と猛烈なストレスを感じるかもしれません。
でも医者も同じです。「こんなに待たせてしまったのに、これだけの説明しかできないって……」と猛烈なストレスを感じているものなのです。