原則、65歳から受け取れる老齢年金ですが、希望によって、早く受け取れたり、遅く受け取れたり、自由に選択できます。年金の受取りを遅らせることにメリットがあることは知られていますが、デメリットは意外と知られていないよう。そのことをあとで知り「なぜ教えてくれなかったんだ!」と逆ギレ……そんな困ったことにならないよう、いま一度、ポイントを押さえておきましょう。
なぜ教えてくれなかったのか…年金〈月17万円〉→〈月24万円〉に増額の70歳男性「年金の繰下げ受給」を選んだ判断を後悔したワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

「年金増額」に隠された「年金の繰下げ受給」のデメリット、3つ

年金の繰下げ受給と合わせて覚えておきたいのが、特例的な繰下げみなし増額制度。年金受取の時効は5年で、5年前までさかのぼって一括請求することが可能です。

 

たとえば70歳まで年金の繰下げを行い、この時点で「年金の受取りを開始します!」と請求すれば、以降は月24.1万円の年金を受け取ることができます。しかし、多額のお金がどうしても必要……などのときは、「65歳から受け取るはずだった5年分の年金をください!」と請求することが可能。65歳時点で月17万円の年金であれば、1,000万円近い年金を一括で請求できるということになります。ただし65歳から年金を請求しているとみなされ、以降手にする年金は月17万円になります。71歳時点で同じことをすると、66歳までさかのぼり、そこから5年分の年金を一括請求できます。さらに「66歳で年金を請求しているとみなされる」=「1年間、年金の繰下げをしているとみなされる」となり、以降は65歳時点から8.4%増額となった月18.4万円が支給されます。

 

こうしてみていくと、「年金の繰下げ受給はメリットしかない」と考えがちですが、試しに「年金の繰下げ」と検索してみると、続く言葉として出てくるのは「メリット」ではなく「デメリット」。どういうことなのでしょうか。

 

よくいわれるデメリットは3つ。ひとつ目は「年金の受取額が多くなることで、税金や保険料が上がる可能性がある」ということ。老齢年金は雑所得で課税対象。サラリーマンであれば、現役時代、昇給したけれど手取りはそれほど増えない、という経験をしたことがあるでしょう。その減少が、年金においてもあるというわけです。

 

2つ目は、「加給年金は受け取れない可能性がある」ということ。加給年金は65歳に到達し、かつ被保険者期間が20年以上になった場合、対象となる配偶者または子どもがいれば年金に加算されるというもの。年金の繰下げで増額になる分には当然含まれず、待機中は加給年金だけをもらうこともできません。

 

3つ目は、「年金の受取総額が減少する」ということ。これをデメリットと呼ぶことを疑問視する人もいますが、何歳まで生きられるかどうかで、繰下げ受給しなかったほうが年金の受取総額は多いという減少が発生するかもしれない、というものです。

 

これらをデメリットと捉えるのか、制度上の特徴と捉えるかは、人それぞれかもしれません。ただ知っているかどうかは大きな違いです。あとで「なぜ教えてくれなかったんだ!」とか、「自分の選択が浅はかだった……」などと後悔しないよう、年金の繰下げ受給の仕組みと共に覚えておくといいでしょう。

 

[参照]

出所:内閣府『生活設計と年金に関する世論調査』

日本年金機構『年金の繰下げ受給』