大学院の博士課程を卒業したものの新卒入社した会社をすぐに辞め、アルバイト→フリーランス→会社員と渡り歩いてきたAさん(55歳)。その妻Bさん(54歳)も、就職をした後にフリーランスに転じました。夫のAさんは「学生時代は親が払っていたはずだし、アルバイト時代だって少ない給料から年金は支払ってきた」と、年金については人並みに支払ってきたと思っていました。しかし、いざ年金見込み額を調べると、驚きの結果に…。今回は、年金見込み額が想定以上に少なかったAさん・Bさん夫妻を例に、50代後半から可能な「年金上乗せの対策」を井戸美枝CFPが解説します。
「年金の受取額が月9万円?さすがに嘘だろ」大学院卒の55歳会社員、年金事務所で憤慨も「恥ずかしい勘違い」に意気消沈のワケ【CFPの助言】
繰り下げ受給は影響大
年金額を大きく上乗せできた対策の1つが「繰り下げ受給」です。
国民年金や厚生年金などの「公的年金」は、65歳から受け取ることが想定されています。が、希望すれば、受給開始時期を自分で選ぶこともできます。60~64歳に受け取り始めることを「繰り上げ受給」。66~75歳に受け取り始めることを「繰り下げ受給」といいます。
「繰り下げ受給」を選択すると、受け取りを1ヵ月遅らせるごとに、0.7%ずつ年金が増えていきます。仮に、70歳まで遅らせると42%、75歳まで遅らせると84%の増額になります。
また、国民年金と厚生年金は、別々に繰り下げることができます。国民年金は受け取りつつ、厚生年金だけを繰り下げる、といった方法も可能です(※)。繰り下げ受給による増額は一生涯続きます。夫の年金を受給しながら、平均寿命が長い女性の年金を繰り下げておくのもよいですね。色々な方法を検討してみましょう。
厚生労働省のウェブサイトでは、将来の年金額をシミュレーションできる「年金シミュレーター」があります。「生年月日」「年収」「いつまで働くか(就労完了年齢)」「いつから受け取るか(受給開始年齢)」を入力すると、年金見込み額がグラフで表示されます。年収や受給開始年齢といった条件も簡単に変更できます。
繰り下げ・繰り上げによって受給額がいくら変わるか、試算できますので是非試してください。
(※)会社員として働き、年下の妻がいる場合は、繰り下げる前に「加給年金」の対象かチェックしてください(本稿のご夫婦は年齢差が1歳だったため考慮しませんでした)。
加給年金は、会社員など厚生年金に20年以上加入した人が65歳になったとき、生計を維持する年下の配偶者がいると、年金が加算される制度です。条件を満たせば、配偶者が65歳になるまで、年約40万円を受け取ることができます(2024年度の場合408,100円)。
この加給年金は、厚生年金とセットです。厚生年金を繰り下げると、その間は支給されません。繰り下げよりも受給額が上がるケースもありますので、厚生年金を繰下げる前に必ず確認しておきましょう。