大学院の博士課程を卒業したものの新卒入社した会社をすぐに辞め、アルバイト→フリーランス→会社員と渡り歩いてきたAさん(55歳)。その妻Bさん(54歳)も、就職をした後にフリーランスに転じました。夫のAさんは「学生時代は親が払っていたはずだし、アルバイト時代だって少ない給料から年金は支払ってきた」と、年金については人並みに支払ってきたと思っていました。しかし、いざ年金見込み額を調べると、驚きの結果に…。今回は、年金見込み額が想定以上に少なかったAさん・Bさん夫妻を例に、50代後半から可能な「年金上乗せの対策」を井戸美枝CFPが解説します。
「年金の受取額が月9万円?さすがに嘘だろ」大学院卒の55歳会社員、年金事務所で憤慨も「恥ずかしい勘違い」に意気消沈のワケ【CFPの助言】
年金をどれだけ増やせるか?
それでは、Aさん夫妻の年金をどのように増やしていけるのか、具体的に考えていきましょう。
2人の貯金額を確認したところ、それぞれが約600万円ずつ貯金しており、世帯全体で約1,200万円の資産となります。この資産は、医療や介護が必要となった場合など「もしものときのお金」として、確保しておくことにしました。ここでは、毎月の年金額だけで生活費を賄うことを目指してみましょう。
シンプルに普通預金に貯金していく……といった対策ももちろん有効ですが、公的な制度を用いれば、より効率よく退職後の資金を貯めることができます。
■公的な制度を利用した対策
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夫Aさん
・iDeCoへ加入する
・出来るだけ長く働いて厚生年金の加入期間を長くする
・公的年金を繰り下げる
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妻Bさん
・iDeCoへ加入する
・出来るだけ長く働いて公的年金を繰り下げる
では、これらの対策を実施した場合、どれくらい年金額が増えるのでしょうか。
■夫Aさん(70歳まで働くと仮定)
◯国民年金を70歳まで繰り下げる(60ヵ月繰り下げ/42%増額)
国民年金:年額816,000円→1,158,720円 +年額342,710円(月額+28,559円)
◯70歳まで厚生年金に加入(年収が変わらない場合)
年額552,500円→年額828,700円 +年額276,200円(月額+23,000円)
◯55歳から65歳までiDeCoに加入(掛け金は年額27.6万円)
積立金:2,760,000円
・65歳時点
年利5%運用:3,570,000円 / 年利6%運用:3,770,000円
・65歳からは積立なしで70歳まで運用した場合
年利5%運用:4,556,325円 / 年利6%運用:5,045,110円
・70歳から90歳まで20年間かけて取り崩した場合…(※)
+年額252,255円(月額+21,021円)
■妻Bさん(70歳まで働くと仮定)
〇国民年金・厚生年金を70歳まで繰り下げ(60ヵ月繰り下げ/42%増額)
国民年金:年額816,000円→1,158,720円
厚生年金:年額82,200円→116.724円
+年額377,250円(月額+31,437円)
◯54歳から60歳までiDeCoに加入(掛け金は年81.6万円)
積立金4,896,000円
・60歳時点
→年利5%運用:5,695,970円 / 年利6%運用:5,875,802円
・60歳からは積立なしで70歳まで運用した場合
→年利5%運用:9,278,135円 / 年利6%運用:10,522,666円
・70歳から90歳まで20年間かけて取り崩した場合…(※)
+年額 526,133円(月額+43,844円)
(※)年利平均6%で運用後、70歳時点ですべて現金化した場合の試算です。iDeCoにかかる手数料は省略しています。70歳以降も運用を続けながら取り崩すと、資産の減少が遅くなり上乗せできる金額が増える可能性があります。
いかがでしょうか。
すべての対策を実施すれば、世帯全体で年額約177万円(月額約147,000円)の年金額アップが見込まれます。すでに1,200万円の貯金や資産がありますので、これらの対策を行えば退職後も安定した家計となり得るでしょう。