今月上旬、戸籍を偽造し、就労をしていた70代女性が有罪判決を受けました。この事件が物語る、シニア女性の就労環境の厳しさとは……ニッセイ基礎研究所の坊美生子氏が考察していきます。
「戸籍偽造事件」から考えるシニア女性の就労環境の険しさ (写真はイメージです/PIXTA)

性・年齢階級別にみた転職・再就職にかかった月数

 

シニア女性の再就職についても、男性や若年層に比べてハードルが高いことは否めない。独立行政法人労働政策研究・研修機構が2015年、45~74歳の中高年男女約5,000人を対象に行った調査によると、転職・再就職の経験がある人の求職期間の中央値は、男性では「40~45歳」から「70歳以上」までのいずれの年齢階級でも3.0か月、女性でも「40~45歳」と「46~49歳」では3.0か月だったが、女性の「65~69歳」では6.0か月、「70歳以上」では5.0か月と、大幅に長期化する傾向が見られた(図表3)

 

つまり、業種や職種にもよって差もあると思うが、均等法施行後も、「女性」や「高齢」であることが、仕事に就いたり、キャリアを積んだりする上ではネガティブに働いていると言える。もちろん、女性側にも責任はあると思うが、実態として、シニア女性にとって、多様な仕事のチャンスがあり、頑張れば評価や待遇として返ってくる、というような就労環境だとは言えない。

 

とは言え、時代は少しずつ変わっている。キャリアや賃金水準に課題は残っているものの、長期雇用の女性は増えてきた。総務省によると、2022年、働く50 歳代の女性は約670万人、60歳代の女性は390万人、70歳代は約180万人に上っている*4。2010年代に入ってからは、出産後も働き続ける女性が、出産退職する女性を上回るようになった*5。2010年代後半からは、政府によって女性活躍政策が講じられ、これからも長期雇用の女性は増えていくだろう。「お局さん」という言葉も、概念も、時代遅れの「死語」になってきた。

 

さらに付け加えれば、少子化によって、日本人の若年層の労働力人口が減っていることから、必然的に、労働市場における中高年女性の存在感は増すことになる。年齢や性を理由として人材を活用しないなら、企業の持続可能性が低下する、という時代になってきている。中高年女性を長期雇用している企業にとっては、彼女たちの役割について再検討を迫られるだろう。中高年女性側もまた、これまでと同じ仕事するだけではなく、戦力として職場に貢献できるように、リスキリングしたり、新しい業務に挑戦したりする努力が求められるだろう。これからは、日本の社会の中で、中高年女性のパフォーマンスもプレゼンスも、向上していくことを期待したい。

 

2年後の2026年には、男女雇用機会均等法の施行から40年、女性活躍推進法の施行から10年を迎える。女性であることでキャリアに遅れが生じないように、また、高齢になっても能力を発揮する機会が失われないように、誰もが、「働きがい」と「働きやすさ」を感じられる就労環境が整うことを願っている。「若い人や男性が優遇される」という犯罪者の主張も、いつか「荒唐無稽だ」と一蹴できる日が来てほしい。

 

*1:日本経済新聞朝刊(2024年6月9日)。

*2:日本経済新聞朝刊(2024年6月9日)、朝日新聞朝刊(2024年5月29日)。

*3:公益財団法人21世紀職業財団(2019年)「女性正社員50代60代におけるキャリアと働き方に関する調査――男女比較の観点から――」。

*4: 総務省「令和4年賃金構造基本調査」。

*5:国立社会保障・人口問題研究所「第15回出生動向基本調査」。