子のない夫婦が直面する「相続トラブル」
しかし、夫が心不全で急逝したことで状況は一変します。貯蓄も退職金も年金も十分ですから、なんら心配のない、夫婦水入らずの穏やかな老後が過ごせるはずでしたが、願いは一瞬で崩れ去ってしまったのです。
さらに問題はこのあと。夫は親戚づきあいがほとんどなかったため、万が一、(妻のほかに)相続人がいたらと思い、相続人の調査や官公庁に提出する書類の作成などを行政書士に依頼。そこで初めて知る事実が発覚したのです。
――夫には腹違いのきょうだいがいる
つまり異母兄弟。母親は違うが、父親は同じという兄弟姉妹です。民法で相続人となることができると定められた相続人を「法定相続人」といいますが、法定相続人には配偶者と血族の2種類があります。配偶者は常に相続人となり、血族は順位がついており、先順位が相続人になります。第1順位は「被相続人の子」。子のいない夫婦の場合は、次の順位にスライドされます。第2順位は「直系尊属」。これは、父母・祖父母など自分より前の世代で、直通する系統の親族です。すでに他界していれば、次にスライドとなります。第3順位は「被相続人の兄弟姉妹」。ここがよくある、子のいない夫婦の相続トラブルの元凶になる部分です。
まず相手のきょうだいまでは多少の親族付き合いがあるかもしれませんが、さらにその子ども、甥や姪とはほとんど付き合いがない、というケースが多いでしょう。仮に夫のきょうだいが亡くなっている場合、相続権はその子どもである甥や姪に移ります。これを代襲相続といいます。遺された妻は、大した面識のない甥や姪と遺産分割の話し合いをしなければならなくなるわけです。
さらに今回のような異母兄弟のケース。この場合も相続権は発生します。ちなみに認知されていない場合には、相続権は発生しません。またこのケースの法定相続分は両親が同じ兄弟姉妹の1/2です。
(法定相続分)
第九百条
(中略)
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
このように、最愛のパートナーを亡くしたうえ、遺産分割では、あまりなじみのない親戚と相対する可能性のある、子のない夫婦の相続。しっかりと遺言書を作成しておくことが、万が一の際のトラブル回避になります。
[参照]