人間にとって欠かせないのが睡眠。しかし、早寝・長寝・昼寝を「よい習慣」だと勘違いしている人は少なくありません。間違った睡眠を習慣にしてしまうと、不眠症になったり、さらには「うつ病」を引き起こすリスクもあるといいます。鎌田實氏と和田秀樹氏の共著『医者の話を鵜吞みにするな』(ワック)より、正しい睡眠について医師2人の対談を見ていきましょう。
不眠症は「うつ病」の引き金にもなる
和田 不眠症はうつの引き金になりますね。老人医療の現場にいると、高齢者になるにつれて「うつ」で悩む人が増えてくることがわかります。疲れやすい、不眠症、頭痛や腰痛などを訴える人が多くなってくる。うつはそれだけでも深刻な問題ですが、認知症にも深く関わっているようです。
鎌田 うつは脳内の神経伝達物質セロトニン不足と関係があるそうですが、セロトニンは感情や気分のコントロール、精神の安定に深く関わっているので、これが減少すると、イライラや不安、恐怖などの心の不調がもたらされるのでしょう。特に高齢になるとセロトニンが不足しがちになるので、不安感が大きくなり、うつになりやすいようですね。
和田 私も長年老年精神医学の仕事をしていますが、不安になる心理に対して、きちんとしたカウンセリング治療はできなくても、短い時間ながら気持ちを組んであげるように診察し、脳内のセロトニンを増やす薬を飲んでもらうだけで、うつ病がよくなることは多いですね。
年をとると、死別や仲間との別れなど多くの喪失体験を経験しますし、身体機能や脳の機能も衰え、それらを自覚することで落ち込むこともあるでしょう。でもそんな場合にセロトニンを薬で補充してあげると、うつの症状が改善する例が多いですね。
鎌田 高齢者のうつ病の場合、頭痛や肩こりなど身体的なつらさに加え、病気や認知症への心配、経済的な問題などで、大きな不安を感じる人が少なくないですものね。うつ病の薬が効くと、こういった症状がかなり改善しますね。
和田 疲れが取れないとか、夜中に目を覚ます、食欲が落ちる、腰痛が治らないなどの訴えは、年のせいと一概に片付けられることが多いのですが、もしかしたらセロトニン不足やうつ病のせいかもしれないのです。
鎌田 なかなか治らない場合は、精神科や心療内科で相談をしてうつ病の薬を試してみる価値があると思いますね。
和田 イライラして仕方がない、急に切れるなどの症状は、うつ病の薬を試す価値ある症状です。安定剤などで抑えようとすると、頭がぼんやりしたり、記憶力が悪くなったり、元気がなくなったりするので、それよりは脳内のセロトニンを足すような薬の方が、高齢者の元気を保つために有効ですね。
鎌田 うつ病の有名な症状に「日内変動」というものがありますよね。午前中は調子が悪いが午後になると元気になるというもの。睡眠導入剤の副作用でも起こるので、そんな薬を常用している場合は薬を減らすとか。
和田 でも、長年、高齢者のうつ病を見ているとその逆のパターンが珍しくないのです。午前中は特に比較的調子がよいのに、夕方になると不安感が高まったり、イライラしたり落ち込んだりする。これはおそらく、高齢者の場合は脳が疲れやすいので、夕方になると症状が悪くなりやすいのではないかと思います。これも薬が効くことが多いのですが、昼寝などで脳を休ませるのも有効なようです。
鎌田 實
医師
和田 秀樹
精神科医