年金の受給開始時期を遅らせることにより、受給額を増やせる「年金の繰下げ受給」。上限年齢は現状75歳で、長生きリスクへの予防にも繋がります。しかし、近ごろ話題の新NISA制度の登場により、請求してから後悔する人もいるようで……。本記事では、Aさんの事例とともに年金繰下げと高齢期の資産運用について、CFPの伊藤貴徳氏が解説します。
しまった、年金繰下げしなきゃよかった…70歳会社員、5年後には「年金28万円」も〈新NISA〉登場で大後悔のワケ【CFPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

新NISAとは

新NISAは、資産運用によって得られた売却益が非課税となる国の制度のことをいいます。主に株式や投資信託を自分で選択し、運用の管理は自身で行います。通常、証券会社等で証券口座を開設して取引を行った場合、利益には約20%の税金がかかりますが、新NISAにはそれがありません。かつ、現在は世界的に経済が上向きなこともあり、一部の投資信託では年利5%以上の運用成績を出しているものもあります。

 

最近は上昇してきているとはいえ、普通預金の金利が0.02%程度と考えると、投資信託と比較すると利率には大きな差があることがわかります。

 

「年金の繰下げをして、75歳から約28万円の年金を受け取るのもいいが、年金を65歳から受け取って月15万円を運用していたら、もっと効率よく貯めることができたんじゃないだろうか?」というのがAさんの主張です。

 

10年後の積立額=2,329万円(運用関係費等、諸経費は考慮していません)
[図表]毎月15万円を年利5%で10年間運用した場合のシミュレーション 10年後の積立額=2,329万円(運用関係費等、諸経費は考慮していません)

 

Aさんの思惑
→65歳からの年金を新NISAで運用し、65〜75歳の運用成績でおよそ2,300万円を受け取り、かつ、その後は積立に充てていた月15万円の年金を受け取ることができる!

 

しかし、ここには大きな誤算があったのでした。

 

誤算1.積立額には上限がある

新NISAになってからは月10万円(年間120万円)の積立が可能となりましたが、2024年1月より前の旧NISA制度では年間40万円が積立の上限でした。つまり、Aさんが年金の繰上げを選択した時点は年間で40万円までしか積立をすることができず、そもそもの計画を実行できなかったことになります。

 

新NISAとなった現在でも、つみたて投資枠での運用は1ヵ月あたり10万円が限度となります。

 

誤算2.利率が保証されているわけではない

新NISAでは、投資対象である投資信託を自ら選択して運用を行います。投資信託をはじめとした金融商品は、元本が保障されていないものがほとんどです。価格の変動幅というリスクを許容しながら、リターンを享受するという考え方が必要です。先述の年率5%という数字はこれまでの成績であり、将来の利率が確約されているわけではありません。将来大きな経済の変動が起きた時には、預けた金額を割り込んでしまう可能性があることも考慮しておきましょう。

 

Aさんは利率の高さに魅力を感じていましたが、投資信託の変動リスクの存在を知りませんでした。

 

「元本保証でこんなに利率が高いのなら、繰下げなんてせずに新NISAで運用するべきと思っていたけれど、減ってしまう可能性もあるんですね。積立額には上限もあるようだし、もっとしっかりと調べて理解したうえで相談すればよかった。無知でお恥ずかしい限りですが勉強になりました」