金持ちは大変だね……他人事と思っていた「相続トラブル」。しかし、裁判沙汰にまで発展するのは「遺産総額1,000万円以下」が最も多く、実は一般人のほうが相続トラブルに巻き込まれやすいというのが実情です。今回は遺産分割、相続放棄にまつわるトラブル事例をみていきます。
実家から消えた〈77歳高齢母〉の痕跡…遺産総取りの〈53歳出戻り長男〉の呆れた言い訳に、〈51歳長女〉震えが止まらず「ふざけるな!」 (※写真はイメージです/PIXTA)

遺産分割、相続放棄、遺留分…それぞれの時効

相続人の間で遺産を分ける手続きである「遺産分割」。父の遺産分割の際、長女と次女は「遺産はいりません」と、「相続放棄」をしたことになりますが、原則として、「相続放棄」を撤回することはできません。

 

相続人全員の合意があれば遺産分割をやり直すことはできます。今回の件では、母が面倒を見るといった代わりに遺産のすべてを長男が相続しました。これに対して「約束と違う」と遺産分割協議を解除できるかといえば、最高裁は以下のように判断しているので難しそうです。

 

「相続人の1人が他の相続人に対して上記協議において負担した債務を履行しないときであっても、他の相続人は民法541条によって上記遺産分割協議を解除することができないと解するのが相当である。けだし、遺産分割はその性質上協議の成立とともに終了し、その後は上記協議において上記債務を負担した相続人とその債権を取得した相続人間の債権債務関係が残るだけと解するべきであり、しかも、このように解さなければ民法909条本文により遡及効を有する遺産の再分割を余儀なくされ、法的安定性が著しく害されることになるからである。」(最判平成元年2月9日)

 

ただ相続人全員で再分割協議を行うことを否定したものではないので、長男も含めて同意があれば遺産分割を再度話し合うことはできます。しかし長男が同意するとは考えられないので、再び遺産分割が行われる可能性はゼロと考えられます。

 

遺留分減殺請求によって遺留分を主張するといったことも考えられます。遺留分は一定の相続人に対して、遺言でも奪うことのできない遺産の一定割合の留保分のことであり、法定相続分の2分の1が認められます。実家の価値が2,000万円だとすると、長女や妹には500万円の法定相続分があり、その2分の1の250万円の遺留分が認められる可能性があります。遺留分減殺請求の時効は以下の通り。

 

民法第1042条

減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。 相続開始の時から十年を経過したときも同様とする。

 

遺留分減殺請求を行うことができれば、実家の売却は防げるかもしれません。

 

[参考資料]

法テラス『相続放棄を撤回することができますか。』

法テラス『遺産分割をやり直すことができますか。』

法テラス『遺留分減殺請求とは、どのような請求ですか。』

法テラス『遺留分減殺請求権に時効はありますか。』