がんの治療法とされているものは数えきれないほどありますが、もし自分や家族が「がん」と診断され、医師から治療法を提示された際、まずまっさきに確認しておかなければならない1つの事象があります。それはいったいなんなのか、医師である勝俣範之氏の著書『あなたと家族を守る がんと診断されたら最初に読む本』(KADOKAWA)より、詳しくみていきましょう。
「がんの治療法」を提示されたら…患者がまっさきに聞くべき“たった1つの質問”【医師が解説】
がんには保険適用の「標準治療」が最も効果的
【登場人物】
■教える人……勝俣範之先生
あらゆる部位のがんを診られる腫瘍内科医として日々診療にあたっている。
■教わる人……編集者O
身近にがんに罹患する人が増えて、わからないことだらけで心配になっている。
編集者O(以下、O):治療開始に向けて、診断結果をもとに医師から治療法が提示されると思いますが、がんは情報が多すぎて何が最善なのか、困惑しそうです。治療法を選ぶ基準などはあるのでしょうか?
勝俣範之先生(以下、勝俣):世の中には、がんの治療法と称するものが数えきれないほどありますね。その中には医学的に真っ当なものから、まったくのインチキまで、さまざまなものが混在しています。そうした中から患者さん1人ひとりに合った最適な治療法として、保険が適用される「標準治療」を必ず受けてください。
O:標準治療? それは、どのようなものですか? 普通の治療、一般的な治療というニュアンスが感じられますが……。
勝俣:標準治療とは、しっかりとした「科学的根拠(エビデンス)」に基づいた、現時点で患者さんが受けられる「最善」で「最良」の治療法です。つまり、現在利用できるがんの治療法の中で、最も効果が期待できる世界標準の治療法ということになります。
O:ということは、標準というよりも、むしろ最高の治療法ということになりませんか?
勝俣:そう言ってもかまいません。問題は、標準という言葉に対する誤解です。標準と聞くと、私たち日本人は、「ありきたりな」「大したことがない」「並みの」「通常の」「必要最低限の」といったイメージを持つ人が多いと思います。
しかし、標準治療とは、英語の「スタンダード・セラピー」を単純に日本語訳したものです。英語のスタンダードには標準という意味以外に、「模範的な」「一流の」「権威ある」という意味があります。ですから本来のスタンダード・セラピーには、「誰もが模範にするべき一流の治療」という意味が込められています。
O:その標準治療は、誰が、どのように決めているのですか?
勝俣:標準治療は基礎研究やハードルの高い臨床試験から得られた結果を、世界のがんの専門家たちが集まって徹底的に調べ、検証し、その有効性や安全性を確認した信頼度のきわめて高い治療法です。
たとえば、がんの新薬として実際に標準治療で採用されるのは、1万個の新薬候補の中でもたった1個、わずか0.01%しかありません。薬に限りませんが、標準治療はそれだけ高く厳しいハードルをクリアしたものということになります。スポーツの世界にたとえるなら、オリンピックで金メダルを獲得するようなスーパーアスリート級の治療が標準治療なのです。