日本人の死因第1位である「がん」。身近で怖い病気として知られるがんのリスクを減らすため、定期的にがん検診を受ける人は少なくありません。しかし、検診でがんが見つかり手術したとしても、「命拾いした」とはいえない可能性があるといいます。それはなぜなのでしょうか。本記事では、『健康の分かれ道 死ねない時代に老いる』(KADOKAWA)の著者で医師・小説家の久坂部羊氏が、がん検診の実情について解説します。
がん検診のメリット・デメリット
がん検診のメリットは、もちろん早期のがんが見つかって、命拾いする可能性があることです。デメリットは、時間が取られる、偽陽性の判定に翻弄される、検査被曝でがんになる危険性が少しあるなどです。
偽陽性というのは、がんでないのにがんの疑いと判定され、精密検査を勧められることです。医者は念のためという発想で、要精密検査と判定するバイアスがかかっていますし、受診者を増やしたいというバイアスもかかっているので、過剰診断に傾きがちです。
要精密検査と判定された受診者は、ショックでしょうし、精密検査のためには改めて病院に行き、診察を受け、検査の予約を取り、詳しい検査を受け、また改めて結果を聞きに行かなければなりません。
その時間的、経済的、身体的、心理的負担は、決して軽くはないはずです。それでも命の危険がわずかでも減るのなら、厭(いと)いはしないという人も多いでしょう。
早期のがんが見つかって、手術を受けた人は、がん検診のおかげで命拾いしたと強く実感し、他人にもぜひ受けるようにと勧めたりします。
しかし、必ずしも命拾いは事実ではありません。理由は検診で見つかったがんは、手術で取り除かなくても命に関わらない可能性があるからです。
この主張は「がんもどき仮説」で有名な故・近藤誠氏が提唱したもので、多くの医療者は否定的ですが、完全に否定する根拠はありません。もちろん肯定する根拠もありません。