老年期(65歳以後)には「三大喪失体験」がある

65歳の老年期に穏やかな老後が待っているかというと、まったく逆です。「年だけはとりたくない」「年には勝てない」などと言われるように、過酷な老いが迫ってくるからです。

老年期には三大喪失体験というものがあります。第一は身体的機能の喪失です。筋力が低下し、鈍くさくなり、注意散漫になり、視力低下、聴力低下、味覚低下、歯の脱落、誤嚥、消化機能の低下、尿失禁、便秘、歩行困難、書字困難、平衡感覚低下、そして性機能の低下などが起こります。

免疫機能の低下で感冒から肺炎に移行しやすく、感染症に罹りやすく、止血機能の低下と毛細血管の脆弱化で内出血しやすく、皮膚は弱まり、傷は治りにくくなり、女性の場合は骨盤底筋群の筋力低下で、腹圧性尿失禁(くしゃみや大笑いで尿がもれる)や子宮脱(膣から子宮がはみ出る)も起こります。

呼吸機能の低下で息切れ、慢性気管支炎、肺気腫などになりやすく、脳機能の低下でもの忘れ、気力低下、判断力低下、忍耐力低下、自制心も弱まり、すぐ感情的になったりします。移動能力の低下でひきこもり状態になったり、骨粗鬆症で転倒すると簡単に骨折したり、生活習慣病が悪化して、いわゆる“病気のデパート”状態になります。

老化は普遍的(だれにでも起こる)ですが、個人差があるので、多くの人は自分は大丈夫と思いがちです。その油断がいざ老化現象に直面したとき、どうしてこんなことにとか、こんなことになるとは思っていなかったなどの煩いと嘆きをもたらします。

二番目は社会的・経済的状況の喪失です。退職、引退などで仕事をやめると、社会的な地位及び家庭での立場を失います。この喪失感は、社会で活躍していた人ほど大きくなります。

若いころに出世や名誉を目指して頑張り、功なり名遂げて喜んでいると、老年期にそれを失うことで精神面での危機に直面します。企業の会長や大学の名誉教授などで、いつまでも肩書きに固執する人たちはそれを恐れているのです。たいしてえらくならなかった人のほうが、穏やかな老年期をすごせる可能性が高いともいえます。

長生きをすると、必然的に家族や親しい人との死別を経験することになります。子どもや孫の自立による離別、配偶者との死別もあり、自力で暮らせなくなって施設に入所すると、思いがけない生活環境の変化にも直面させられます。生きることへの意欲も低下し、万年床、着たきり雀、放置台所、いわゆるゴミ屋敷などの状態(「隠遁症候群」と呼ばれます)になることもあります。高齢になると、自由な時間は増えますが、気力体力の低下でそれがうまく使えないようになります。