「壮年期」つまり45歳〜65歳前後は、これまでの努力が実り「人生の最盛期」と思われる時期です。しかし職場でも家庭でも大きなストレスを抱えやすく、体調も不安定になりがちです。その結果、精神面で危機的な状況を迎えるリスクもあります。本記事では、『健康の分かれ道 死ねない時代に老いる』(KADOKAWA)の著者で医師・小説家の久坂部羊氏が、壮年期におけるストレスについて解説します。
45歳〜65歳前後の〈壮年期〉にはあらゆる困難が押し寄せる…人生の破滅を招きかねない“精神の危機”を乗り越えるため「若いときからやっておくべきこと」【現役医師が解説】
壮年期(45歳〜65歳前後)に抱えるストレスの実態
この時期は、それまでの努力が実って、人生の最盛期を迎えるのかといえば、そう楽観ばかりはしていられません。フォーマルな場では、経験を積み、実績を挙げることで地位が向上しますが、それに伴い、仕事の範囲は拡がり、責任と義務が増え、人間関係が複雑化する危険に直面します。
もちろん、地位が向上すると、自己信頼感が増し、新たな意欲が湧いたり、賞讃や尊敬を受ける喜びを得ることもできます。しかし、立場に応じた結果を求められ、重大な決断を迫られたり、結果責任を負わされたり、管理者として部下の失態に謝罪させられたりして、ストレスも増大します。
壮年期は人間性が成熟すると同時に、心身の機能低下がはじまる時期でもあります。地位は向上するけれど、無理が利かなくなり、それでも焦って無理をすると、病的疲労の状態になり、「昇進うつ病」といわれる状態になります。定年が近づくと、自分の限界が見えて、「上昇停止症候群」に陥る人もいます。これまで会社に対して果たした貢献と、評価や報酬のギャップに空しさを感じて、やる気をなくしたり、適当にごまかしたりする状態です。
男女ともに更年期障害がはじまるのも壮年期です。女性の更年期障害はよく知られていますが、男性も精巣機能の低下で、ほてりや発汗、イライラや不安、さらには勃起障害もはじまります。
フォーマルな場では自分勝手は許されませんから、体調が悪くてもなかなか休めず、周囲に迷惑をかけることを心配するあまり無理が重なり、高血圧、不眠、暴飲暴食、動悸、息切れ、苛立ち、うつなどの心身の症状が出ることも少なくありません。そんなとき、多くの人は医療に頼ろうとしますが、大もとの原因は心身の自然な機能低下ですから、薬やカウンセリングで解決できるものではありません。
インフォーマルな場では、壮年期は人生の折り返し地点を実感する時期でもあります。特定の仕事、配偶者、住居、子育て、家族関係を選び、これまで生きてきた人生を振り返ったとき、これでよかったのか、もっとましな人生があったのではないか(よい仕事、よい相手、よい子育て……)という思いが止めどもなく湧き出します。しかし、人生をやり直すにはもう遅い。その嘆きと苦悩。そして、このまま老いていくことへの不安と悲しみ……。
もちろん、自己肯定力の強い人は、そんな絶望には駆られないでしょう。しかし、他人の評価を気にする人や、過去に対する悔いを忘れられない人は、薬物依存やアルコール依存、ギャンブル依存やセックス依存などの逸脱行動に出て、失職、経済破綻、家庭崩壊、自殺など、人生の破滅に突っ走る危険性があります。