日本人の死因第1位である「がん」。身近で怖い病気として知られるがんのリスクを減らすため、定期的にがん検診を受ける人は少なくありません。しかし、検診でがんが見つかり手術したとしても、「命拾いした」とはいえない可能性があるといいます。それはなぜなのでしょうか。本記事では、『健康の分かれ道 死ねない時代に老いる』(KADOKAWA)の著者で医師・小説家の久坂部羊氏が、がん検診の実情について解説します。
がん検診に寿命延長の効果はないという分析も…
いくらがん細胞を顕微鏡で見ても、DNA解析をしても、今のところ悪性度は判定できません。悪性度が強いと、早期がんでも命を奪いますし、悪性度が低ければ(ニアリーイコールがんもどき)、進行がんでも長期に延命できます。
現在、厚労省が行うがん検診は、胃がん、肺がん、大腸がん、乳がん、子宮頸(けい)がんの五種(男性は三種)だけで、それだけ熱心に調べても、ほかのがんは十指にあまるほどありますし、がん検診に寿命延長の効果はないというメタアナリシス(複数の研究をまとめた分析で、エビデンスとしての信頼度がもっとも上位のもの)もあります(オスロ大学健康社会研究所。2023年)。
だから、私は一度も受けたことがありません。ある本を書く際に医学部の同級生にアンケートを採りましたが、この十年間に一度も受けたことがない者が三分の二を占めました。
今、日本人は生涯のうち、二人に一人ががんになるといわれますが、それは逆にいえば二人に一人はがんにならないということです。その人にとってはがん検診はすべて無駄で、先の五種以外のがんになる人にも無駄です。
検診を受けて上辺の安心を得るより、自分の健康状態と症状に注意したほうが安全ではと、私は考えています。
久坂部 羊
小説家・医師