現在の認知症予防と治療は”竹槍”

がんと同様、現代の人がもっとも忌避する病気のひとつは、認知症でしょう。私はデイケアのクリニックと在宅医療で、2001年から2014年まで、高齢者医療に携わり、その間、多くの認知症の患者さんを診療しました。

認知症については多くの研究がなされ、新薬の開発も次々と行われています。2023年にもアメリカと日本の企業が共同開発したアルツハイマー病に対する新薬レカネマブ(商品名レケンビ)が承認され、患者さんと家族のみなさんは大いに期待したことでしょう。

現在、認知症は、アルツハイマー型、レビー小体型、前頭側頭型(ピック病)、脳血管障害型に分類され、混合型もあります。アルツハイマー病は、アミロイドβというタンパク質が脳に溜まり、神経細胞を破壊するとされ、先に述べた新薬は、アミロイドBに対するワクチンのようなもので、脳内からアミロイドを取り除く効果があるとされています。

これだけ見れば、有効性は高いように思えますが、承認の根拠となったデータは、プラセボ群と比較して、27%症状の悪化を抑制した、すなわち進行を遅くしたというものです。進行を止めたのではありません。症状を改善したのでもありません。しかも、100%ではありません。

おまけに脳浮腫や微小出血の副作用の危険もあります。さらに使用の適応は軽度の認知症に限られ、重度の認知症には使えません。ですから、ある新聞記事にはこんなコメントが添えられていました。

「治療効果はごくわずかで、日常生活では患者本人にも家族にも実感されない可能性が高い」