老後、もし介護が必要になったら……。介護費用の負担が心配な人は少なくないでしょう。限られた老後資金から介護費用などの想定外の支出に準備するため、投資などの資産運用を行っている場合、運用した「あと」のことまでイメージできていますか? 見落とされがちな落とし穴もあるため注意が必要です。本記事ではAさんの事例とともに、現金以外で保有する資産の注意点について、株式会社アイポス代表の森拓哉CFPが解説します。
年金月20万円の85歳・元バブル企業戦士〈資産5,200万円〉の父、脳梗塞で倒れ施設へ→お金は問題ないはずが…入居から1年「老人ホーム費用が足りません」56歳長男、顔面蒼白のワケ【CFPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

穏やかな老人ホーム暮らしから1年…発覚した驚愕事実

Aさんの施設代の引き落とし口座はAさんの生活口座を指定しました。Aさんのキャッシュカードは長男Bさんが管理することとなったため、日常の生活のなかではそれほど問題となることは起きませんでした。一方で、入ってくる年金はあるものの、毎月25万円の施設代がかかるため、年間60万円ほど銀行口座の残高が減っていきます。

 

老人ホームでの生活が1年を過ぎたころ、口座残高が100万円を切ろうとしていたとき、Bさんはそろそろ、証券口座の資産の現金化をしようかと試みることになりました。

 

ところが、Bさんが証券会社に連絡をしたところ、証券会社からの回答にAさんは真っ青になります。

 

証券会社「お手続きできません」

証券会社からの回答は「Aさんご本人でないと株式の売却、出金の手続きはできませんよ」というものだったのです。BさんはAさんが脳梗塞で倒れたため、言葉もおぼつかなく電話で会話をするのも困難という事情を伝えますが、証券会社は取り合ってくれません。

 

焦るAさんは「ええ! では、どうすれば株を売却して現金化できるのでしょうか?」と返すと、証券会社からの回答は、「成年後見制度の利用をするしかありませんね」というものでした。

 

成年後見制度の利用は解決策の1つになりうることは間違いないのですが、初めて聞く制度にBさんはその利用をためらいます。

 

はたして月々5万円程度の資金を引き出すためだけに、本当に成年後見制度まで利用しないといけないのか? モヤモヤした気持ちのなかで解決策に向けて一歩踏み出せずにいたのでした。

任意後見制度や家族信託制度などの大掛かりな対策でなくても…

事前の対策としては、Aさんがまだ元気なうちに、Bさんと任意後見契約を結んだり、家族信託を組成するなどの対策が考えられますが、Aさんの場合はそれほど大掛かりな対策をせずとも解決できた可能性もあります。

 

株式の配当金

たとえば株式の配当金に注目してみましょう。株式の配当金の受け取り方法には大きく2通りあり、

 

・証券総合取引口座で受け取る方法(株式数比例配分方式)

・指定の金融機関に振り込んでもらう方法(登録配当金受領口座方式もしくは個別銘柄指定方式)

 

から選ぶことができます。配当金領収証方式といって現金で受け取る方法もありますが、現金での引き渡しに伴うリスクを顧みて、口座で受け取る方式に切り替えが進んでいます。Aさんの場合は、銀行口座の管理はBさんができていたわけですから、株式の配当金を金融機関に振り込んでもらう登録を済ませておけば、老人ホームの資金で困ることがなかった可能性もあるのです。