(※写真はイメージです/PIXTA)

2024年は能登半島地震で幕を開け、4月にも愛媛県・高知県で震度6弱の大きな地震がありました。昨今では地震に加え、豪雨災害や、水害、風害の報道が相次いでいます。このような報道があるたび、クリニックの院長や経営幹部方は、災害時に備えた取り組みや、災害時におけるクリニックの運用に頭を痛めているのではないでしょうか。ここでは、クリニックの災害対策の基本と、講じておくべき対策を解説します。本連載は、コスモス薬品Webサイトからの転載記事です。

災害時の困りごと

クリニックが災害に見舞われたとき、まず真っ先に懸念されるのが「停電」です。クリニックの停電で想定される問題には以下のようなものがあります。

 

医療機器が十分に使えない

心電図、レントゲンなどを含めた、医療機器が使用できなくなります。

 

医薬品保存が不可能になる

薬品冷蔵庫のバックアップ充電機能がない場合、4度以下で保存を必要とするワクチンや抗体医薬品などが使用できなくなり、破棄することになります。

 

診療が必要な患者様への対応ができない

電子カルテを導入している場合は、電子カルテ使用が困難となり、診療を行う場合でも情報源がないため、普段通りの検査・処置・処方が不可能となります。糖尿病などを筆頭に、患者様の症状が悪化するリスクがあります。

最も留意すべきはカルテ…「クラウド型電子カルテ」が安心

上記のうち、クリニックの診療・会計などの心臓部分となるのが、電子カルテシステムです。

 

紙カルテは火災や水害に弱く再現が困難であるため、「実体のないデータ」をいつでも取り出せるような仕組みが求められます。

 

院内サーバーにデータを保存するオンプレミス型の場合、建物の倒壊などでサーバーが壊れてしまえばデータが復旧不可能となるデメリットがあります。

 

データを院外に預けておけるクラウド型電子カルテでは、スマートフォンとプリンタがあれば診療・処方・検査はできますが、災害時にはネット環境も不安定とるため普段通りのパフォーマンスの維持は災害時では困難となります。

 

解決策となるのが、院内のサーバー、レンタルサーバーの両方を利用できる「ハイブリッド型」の活用です。災害対策として、ぜひ導入を検討してみてください。

電源の確保ができなければ、なにも始まらない

消防法では、延べ面積が1000m2を超える病院や学校、マンションには非常電源の設置が義務付けられています。

 

建築基準法の場合は、排煙設備が必要(特殊建築物で延べ面積が500m2)かつ非常用エレベーターの設置が必要な場合(高さ31m以上の高層建造物)に非常電源の設置が義務付けられています。

 

しかし一般的なクリニックの多くは非常用発電設備を有しておらず、外部からの電力供給が途絶えた場合では診療継続が困難となります。

 

テナント入居型のクリニックであったとしても、自院が入居する建物の非常電源は法定の防災設備用として設置されているに過ぎないケースが多く、十分な自家発電設備が整っていない場合が多いです。

 

電源工事ができないクリニックでは、工事が不要で動かせる蓄電池を推奨します。こちらは、必要なとき、必要な場所で蓄えた電気を手軽に使用ができます。

 

蓄電池

導入のメリットの1つとして、太陽光発電と同時に導入することで、昼は太陽光からの発電した電力を使用し、余剰となった電力を蓄電池にため、夜間帯でも使用ができます。

 

2つ目のメリットとしては電気料金が安い夜間の電力を貯めてストックし、必要時に昼間でも利用が可能となるため、電気料金を削減することも可能です。

 

医療機器や電子カルテ利用には安定した電力供給が必要であること、燃料を不要とすること、電気代の観点からも、個人のクリニックとしては災害時の電源として、選択肢の1つになると思われます。

 

ディーゼルエンジン型自家用発電設備

大きなトルクを持つ船舶用エンジンを用いて発電をします。

 

太陽光発電設備

ディーゼルなどの燃料式の自家用発電設備のデメリットである燃料切れによる電力維持ストップ、環境への影響が改良されています。太陽光発電には燃料は不要であり、温室効果・地球温暖化となるガス排出もありません。

 

こちらのメリットとしては常用電源としても利用可能という点です。日ごろからメンテナンスを行っていれば、災害時でも自動運転モードに切り替えることも可能であるため、対策の1つとして利用を検討してみてもよいでしょう。

 

このように、災害対策をおこなったうえで、運用としては、あらかじめ院内でルールを決めて定期的に見直し、年2回ほど避難訓練や災害対策訓練を計画するとよいでしょう。

 

 

武井 智昭
株式会社TTコンサルティング 医師