昨今、高齢者の住まいとして有効な選択肢になりつつある「老人ホーム」。入居の理由はさまざまですが、ひとつが「パートナーを失くした喪失感から」というもの。特に妻に先立たれた夫が入居を決断するケースは多いようです。しかし、せっかく決めた老人ホームでも退去に至ってしまうことも珍しくないとか。みていきましょう。
愚かでした…年金17万円・78歳男性「安っ!」と選んだ〈老人ホーム〉も「こんなはずじゃなかった…」と大後悔。見学では見抜けなかった落とし穴

年金だけで月額費用が賄える…希望通りの「老人ホーム」だったが

決して安くない、老人ホームの入居費用。理想は年金だけでカバーできること。厚生労働省『令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況和』によると、厚生年金保険(第1号)の老齢給付の受給者の平均年金月額は、併給の老齢基礎年金を含めて14万4,982円。65歳以上の受給権者の平均は、男性が16万7,388円、女性が10万9,165円。また国民年金の老齢年金受給者の平均年金月額は5万6,428円でした。元会社員であれば月17万円、手取りにすると月14万~15万円程度の年金が期待できます。

 

前出の78歳の男性の年金も平均的なもの。それで費用が賄えるところを第一条件にホームを探したとか。民間企業運営する老人ホームの場合、月額費用の相場は20万~30万円といわれるなか、それほど選択肢はなく……しかし、唯一、予算が希望にあうホームを発見。見学をしてみても特に問題はなく、むしろ、十分すぎるほどの設備だったといいます。

 

ところが、入居して分かったのは圧倒的に職員が足りていないという事実だったといいます。

 

――毎日散歩にいけると聞いていたのに、結局、全然連れていってもらえなかった

――サポートが必要なときに呼んでも全然来てくれなかった

――見学ではサービスの質までは見極められなかった

 

「安さだけで選んで愚かだった」と後悔しています。

 

やはり費用とサービスは比例するもの。納得したサービスを受けたいのであれば、それなりの費用のホームを選ばなければなりません。一方で、昨今は、介護業界における慢性的な人材不足に拍車がかかり、明らかな質の低下がみられるホームも。「サービスが悪くなり、費用と釣り合わない」と退去する人も見られます。また見た目の安さだけで決めてしまうと、月額費用に含まれていない医療費や介護費用などにより、大幅に予算オーバーというケースも珍しくないようです。

 

老人ホームにかかる費用をできるだけ安く抑えたいと誰もが思うところ。もちろん無理なマネープランにより「月額費用が払えない!」という事態は避けなければなりませんが、安さだけで選ぶと、思い描いていたサービスが受けられず、後悔の原因になることも。

 

費用とともに入居後の生活を思い浮かべて、しっかりと釣り合っているかはひとつの判断材料。さらに、追加で支払う費用も加味して、トータルコストで検討することも必須です。

 

前出の78歳男性。一時的に息子の家に身を寄せ、新たなホームを探し中。「今度は費用だけでなく、自分がどのようなサービスを望んでいるのかも、しっかりと見極めていこうと思っています」

 

[参考資料]

株式会社Speee『介護施設の転居に関するアンケート調査』

厚生労働省『令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況和』