日本には、年金暮らしをしている高齢者に対して「ぜいたくをせずに慎ましい生活を送るべきだ」という同調圧力があるものの、本来は高齢者こそお金を使うべきだと、和田秀樹氏はいいます。その根拠について、和田氏の著書『老害の壁』(エクスナレッジ)から詳しくみていきましょう。
「年金暮らしがぜいたくするな」→無視してOK…60代以上の高齢者こそ「お金を使うべき」といえる理由【東大卒医師の見解】
「ぜいたくするな」…年金暮らしの高齢者を苦しめる同調圧力
仕事をリタイアして、年金暮らしをしている人も多いと思います。年金生活をしていると、つつましく生きるべきという同調圧力がのしかかってきます。
2019年に「老後2,000万円問題」というのが話題になりました。金融庁の金融審議会市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」に掲載されたもので、統計から計算すると、年金生活の夫婦2人暮らし世帯の場合、30年間で約2,000万円不足するというものでした。
これを受けて、年金生活者は年金のほかに2,000万円の貯金が必要だと言われるようになりました。これでは貯金が2,000万円に満たない世帯は、ますますお金を使わなくなってしまいます。お金をできるだけ使わずに、余った分をせっせと貯金する世帯も増えたのではないかと思います。
そうでなくても、何歳まで生きられるかわからないからと、高齢者はお金をあまり使いたがりません。また、高齢者は生産に関わらないから、「高齢者が増えると経済が回らない」などとも言われます。
日本はバブル経済が弾けてから、30年以上もデフレ不況で、賃金も上がらない状態が続いていますが、いまだ不況を脱却できる見通しが立ちません。しかし、私に言わせると、高齢者がどんどん消費すれば、不況からも脱却できるのです。
今、日本が不況なのは生産が不足しているからではありません。消費が足りない消費不況ですから、高齢者のように生産をしないで消費だけする人のほうが貴重な存在です。
逆に言うと、高齢者は生産しないからと卑屈になる必要はなく、もっと大手を振って生きるべきです。もちろん、年金生活者も消費者ですし、生活保護受給者も消費者です。世間には「生活保護者のくせにぜいたくするな」みたいな風潮がありますが、ちゃんとお金を使って経済を回しているのです。年金生活者や生活保護受給者に対するこのような態度もまた、高齢者を生きづらくさせているのです。