2000年代頃から一般にも広く知られるようになった「老害」という言葉。東大医学部卒の医師である和田秀樹氏は、「老害」と呼ばれることを恐れ、おとなしくしている高齢者に対して、国やマスコミの言うとおりにしていたら、自分にどんな被害がおよぶかを考えてほしいと警鐘を鳴らします。著書『老害の壁』(エクスナレッジ)より、「老害恐怖症」に陥ってしまった高齢者たちの末路をみていきましょう。
若い人から怒鳴られたくない…「老害恐怖症」に怯える高齢者たちの末路【東大医学部卒の医師が警鐘】
自分は「老害」ではないか…若者に怯える日本の高齢者たち
私は高齢者の免許返納の問題について、いろんな本で書いてきましたが、結論は一貫しています。それは、「まだ十分運転できるうちは返納すべきではない」ということです。
しかし、返納しないと言い張れば、家族からも、社会からも、老害という名の同調圧力にさらされてしまいます。
一方で、これは良識のある高齢者に多いのですが、「老害」と呼ばれるのが怖いと思っている人もいます。これを私は「老害恐怖症」と呼んでいます。
若い人から怒鳴られたくない…「老害恐怖症」に陥る高齢者の特徴
例えば、高齢者がお金を出すのに時間がかかって、コンビニのレジの前に行列ができたりすると、列が進まないのにしびれをきらした若い人が「おい、どうなっているんだ?」と怒鳴るというシーンがあったとします。
こうした場面を見て、自分は若い人に怒鳴られたくないな、と思っている高齢者は、老害恐怖症に陥りやすいと言えます。
そういう人は自分もコンビニに並んでいるときに、イライラした経験があるのでしょう。
若い人から怒鳴られたくないので、買い物は家族にまかせて、自分は家でおとなしくしていようと思うのではないでしょうか。
「老害」といわれることを恐れ…おとなしくし続けた高齢者たちの末路
老害という名の同調圧力にしろ、老害恐怖症にしろ、現代を生きる高齢者の前には、「老害の壁」が立ちはだかっています。この壁をぶち破るのは、かなり勇気がいることです。
でも、この壁を壊さないと、自分の身を守ることはできません。老害の壁を破れずに、免許を返納してしまえば、6年後の要介護率が2.2倍に増えるのです※。
※筑波大学が車を運転する65歳以上の約2,800人を6年間にわたって追跡した調査結果によると、免許を返納した6年後の要介護認定のリスクは2.2倍に上昇することが判明した。
あるいは、コロナに感染しないように、高齢者はなるべく外に出るなと言われ、その通りにしていたら、フレイル※になるのは目に見えています。
※フレイルとは、医学用語である「frailty(フレイルティー)」の日本語訳で、病気ではないけれど、年齢とともに、筋力や心身の活力が低下し、介護が必要になりやすい、健康と要介護の間の虚弱な状態のこと。
この記事を読んで、高齢者の人たちに、国やマスコミの言うとおりにしていたら、自分にどんな被害がおよぶかを考えてほしいと思います。
和田 秀樹
精神科医
ヒデキ・ワダ・インスティテュート代表