うつ病を患っている人のうち、およそ1割が自殺を図ってしまうという現状があります。精神科医の和田秀樹氏は、「老人性うつ」を抱えた家族を持ったとき、自殺をさせないためにできることがある、と語ります。和田氏の著書『65歳からおとずれる 老人性うつの壁』(KADOKAWA)より、詳しく見ていきましょう。
「死にたい」→「そんなこと言わないで」はNG
③自殺を防ぐために効果的な声かけ
では、このような言葉や行動が出た場合に、家族はどう接したらいいのでしょうか?
まずは、この手の話から逃げないことです。「そんなこと言わないで」のひと言は、優しさから出た言葉でも、「やはり自分は邪魔な人間なのだ」と受け取られてしまう可能性があるからです。若い人の場合もそうですが、こういうときは、「どうしたの?」「いつもと違うよ」というような感じで、こちらが聞く姿勢を示すことが大切です。その上で次のような言葉をかけるといいでしょう。
・あなたは、私にも、家族にも、とても大切な人なので、とにかく生きていてほしい
・あなたが生きているだけで幸せ。あなたはいるだけでいい
・あなたが死んだら、私はとても悲しい
・自殺したいと思うのは病気のため。必ず治る病気なんだから
・自殺しないと約束してほしい
このような言葉はいきなり伝えるより、まずは患者さんの「死にたくなるほど、つらい」という気持ちを徹底的に聞き、会話の中に自然と入れられるタイミングで伝えるようにするといいでしょう。
また、これまで挙げてきた言葉や行動が出る場合は、緊急時と捉えて、主治医と相談して入院を考えるのもいいでしょう。入院ができない、あるいは本人が拒否する場合は、なるべく一人にさせない、窓のカギをかけておく、ひもや刃物は探さないと見つからないような場所にしまっておくなどの工夫をしてください。少しでも手間がかかるようにしておくことで、衝動的な自殺のリスクを下げることが重要です。
万が一、まだ医者にかかっていないという場合は、徹底的に話を聞いてから、「やっぱりいつもと違って、おかしいよ。一緒に行くので、医者に話を聞いてもらいましょう」というようにして、病院に連れて行くようにするといいと思います。これも話を十分聞いてからでないと、逆効果になることもあるので気をつけてください。
何度もくり返しますが、高齢者のうつ病というのは薬の効きやすい病気です。このつらい時期を乗り切って死ぬことさえ避けられれば、1〜2年で元の状態に戻ることがかなりの確率で期待できます。とにかく、全身全霊で自殺を食い止めてください。
和田 秀樹
精神科医
ヒデキ・ワダ・インスティテュート 代表