高齢者の約5%が抱えているという「老人性うつ病」は、加齢や認知症と混同されやすく、発見が遅れやすいとされています。和田秀樹氏の著書『65歳からおとずれる 老人性うつの壁』(KADOKAWA)より、どういった理由から「老人性うつ病」の諸症状が見逃されてしまうのかについて見ていきましょう。
200万人近くの高齢者が患っている〈うつ病〉…「歳のせい」と放置することで起こる、“最も悲惨な事態”【医師・和田秀樹氏が警鐘】
「歳のせい」が見逃される原因に
高齢者のうつ病というのは「見落とされやすい病気」だと私は実感しています。なぜなら、高齢者の約5%がうつ病だといわれていますが、それほど多くの人が医者にかかっているとは、とても思えないからです。
うつ病が疑われる人に対して、われわれ精神科医が真っ先に確認することは、食欲と睡眠です。若い人、あるいは中高年の人であれば、「食欲が落ちてやせてきた」「夜眠れない」といった場合、うつ病を疑われることが増えてきました。
特に、同じ不眠でも、朝早く目が覚める「早朝覚醒」や、夜に何度も目が覚めて寝た気がしないという「熟眠障害」があれば、真っ先にうつ病を疑います。ところが、高齢者の場合、食が細くなったり、夜中に何度も目が覚めるようになっても「歳のせいだろう」と片付けられてしまうことが多いのです。
意欲がなくなり、一日中ぼんやりテレビを見ているような状態になっても、やはり「歳のせいだから」ということになりやすいでしょう。配偶者を亡くして何年も経ってから、「(亡くなった)夫のところに行きたい」などと言うようになっても、これをうつ病のサインとは考えない人が多いようです。あるいは、「生きるのに疲れてきた」と言うようになっても「歳のせいだ」と納得されてしまいがちです。
「身体のあちこちが痛い」「最近、体調が悪い」「ため息をつくことが多い」といった身体的な症状が多くなっても、外から見てまあまあ動けていて、家事などができていれば、やはりうつ病の症状とは思われにくいようです。高齢者のうつ病の場合、精神的な症状よりも身体的な訴えのほうが目立つことも、見落とされやすい原因です。
高齢者でなくても、うつ病を抱えている患者の約3分の2は、「身体がだるい」などの身体的な症状を主な訴えとして、初診の段階で内科を受診しているという統計があります。内科医がうつ病を疑ってくれれば、精神科や心療内科につないでくれますが、高齢者の場合、他の精神的なうつ症状が目立たず、身体的な訴えばかりというケースも。すると、内科で中途半端な治療を受けることになってしまう例も珍しくありません。身体がだるいのも、頭痛がするのも、「歳のせい」で片付けられやすいのです。