10㎏の減量に成功!境界型糖尿病からの離脱

緊張していた。右手と右足が同時に出そうなぎこちなさで、診察室に入った。

「広人さん、こんにちは」

先生はいつもの口調で挨拶をしてくれた。

「よろしくお願いします」

先生は僕が提出した体重記録表と食事記録、今日の血液検査の結果表にじっくり目を通していた。その沈黙に僕の緊張は増すばかりだった。

「おめでとうございます」

先生の右手が僕の前に差し出された。思わず、僕も手を出し握手をした。

「まずは血液検査の結果から。空腹時血糖87。ヘモグロビンA1c5.2、AST19、ALT23、γ-GTP29。体重80kg。体脂肪率21%。血糖値、肝機能の数値ともに基準値内になりました。今の広人さんは、もう境界型糖尿病ではありません。スマート外来もめでたく卒業です。よくがんばりましたね」

言いたいことはたくさんあったのに、言葉が出なかった。

「……あ、ありがとう……ございます」

「完走を終えての感想はありますか?」

「たすき、重かったです。途中で何度も外したくなりました。でも、そのたびに妻に励まされました。父からは自分が糖尿病だから、体質が似てしまったんだろうと謝られてしまって……。それもつらかったです。だから、絶対に治りたいと思って」

先生は静かにうなずいていた。そして、言った。

「3ヵ月の挑戦でしたが、広人さんの人生はここでゴールではありません。気を抜けば、3ヵ月前の体にすぐ戻ります。そうなりたいか、もう一段上の健康を目指すかは広人さん次第です。明日の体は、今日食べたもので変わります。念のため、3ヵ月後に経過を確認させてください。お待ちしています」

「本当にありがとうございました」

病院を出て、妻のスマホにメッセージを送った。

「血糖値も脂肪肝も改善! 美希ありがとう。今度は僕が支える番だ」

<先生からの処方箋>

肥満には百人百様の理由がある。口には出せない苦労を乗り越えた汗を讃えたい。

尾形哲
長野県佐久市立国保浅間総合病院
外科部長/「スマート外来」担当医