日本の公的年金制度。細かな決まりごとが多く、知っていると知らないでは、大きな差となることも珍しくはありません。今回は「年金の繰下げ受給」のメリットとデメリットをみていきましょう。
悔やんでいます…「同僚の助言」を信じた月収41万円・定年前のサラリーマン、年金月24万円に歓喜も「やはり65歳で受け取っていれば」

年金受取額が増額される「年金の繰下げ受給」…一方で抑えておきたいデメリットも

現役世代も終わりを迎えようとしている、定年前のサラリーマンが「年金だけで暮らすことは難しい」とう事実を知ったらどうでしょう。

 

――いまさらながら、年金の受取額を増やす方法はないのか

 

とでも考えるでしょうか。そこに同僚から耳寄りな情報。

 

――年金を受け取る時期を遅らせたら、その分、年金は増えるらしいよ

――何それ?

 

これは、いわゆる「年金の繰下げ受給」。通常65歳で受け取るはずの年金を、66~75歳に繰り下げると、1ヵ月受給を遅らせるごとに0.7%、最大84%、年金が増額されるといったもの。定年前、月収41.6万円、年収674万円だという平均的なサラリーマン、65歳から平均的な年金額16.7万円を手にするとしましょう。70歳まで年金を繰下げると、月の受取額は23.7万円に。思わず歓喜してしまうこと間違いありません。

 

そんな「年金の繰下げ」の良いところを聞けば、それはそれは魅力的に思えてくるはず。

 

――十分な貯蓄があるとは言い難い状況だしな

――定年後も(今のペースではないにしろ)働き続ける予定だし

――給与がもらえるうちは、年金をもらうのはやめよう。その分、年金は増えるんだし

 

そう決断し、男性は70歳の時に42%も増額した年金を受け取りました。めでたし、めでたし……となれば御の字。ただ繰下げ受給のデメリットもきちんと抑えておかないと、「えっ、それって損じゃん」と後で知ることに。

 

よく言われるのが「早く亡くなったら損をする」というもの。繰下げ受給中に亡くなれば、結局1円も年金を受け取ることなく「損をした」というカタチになりますし、たとえ繰下げのうえ受給を開始しても、亡くなるタイミングによっては「65歳から年金を受け取った場合の総額」を下回ることも。トータルで損得を考えるような人の場合、年金の繰下げはあまりにリスキーなことだといえるでしょう(関連記事:『【早見表】年金はいつ受け取るのが得?「額面」と「手取り額」の損益分岐点』)。

 

また「税金や社会保険料の負担が増える」という点も、見落としがちなところ。現役時代、給与が増えても天引き額が増えて、「思ったより、給与が増えないなあ」と肩を落とした経験は一度や二度、あるでしょう。これと同じことが年金でも言えます。年金を繰り下げたことで、住民税の非課税世帯だったのが、適用外となり、大きく手取り額を減らしてしまったというケースも。

 

さらに「加給年金や振替加算が受け取れなくなる」という落とし穴も。加給年金は、厚生年金の被保険者期間が20年以上ある人が65歳到達時点で、その人に生計を維持されている65歳未満の配偶者、または18歳になった年の3月31日を迎えていない子がいるときに加算される年金。また振替加算は、配偶者が65歳を迎えるなどで加給年金が打ち切られたあと、配偶者の老齢基礎年金に対し年齢に応じた加算が受けられる制度。どちらも繰下げ受給を選択したことでもらえなくなります。本来もらえたはずの年金がもらえなくなる……繰下げ受給には、このようなデメリットがあることも知っておいたほうがいいでしょう。

 

このように、繰下げ受給には、デメリットといわれることがあります。これらをきちんと理解しておかないと、「やっぱり年金は65歳で受け取るべきだった……」と後悔することに。いずれにせよ、繰下げ受給は長生きすれば得をする制度。ただ長生きできるかどうかは誰も分からず、損するか得するかはギャンブルのようなもの。またライフスタイルや考え方によって、いつ年金を受け取るのに最適かは、人それぞれ。繰下げ受給でどのくらい年金額が増えるのか、年金事務所などで確認してから、実際にどうするか考えるといいでしょう。

 

[参考資料]

総務省『2023年度 家計調査 家計収支編』

厚生労働省『令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況』

日本年金機構『繰下げ受給』