もともと休日に外出する習慣のない人たちは、老後、家に閉じこもるというケースは少なくないでしょう。仕事などの社会との接点を失ったあとも、人生はまだまだ長く続いていきます。本記事では、Aさんの事例とともにセカンドライフの生き方の選択肢について、FP1級の川淵ゆかり氏が解説します。
年金月5万円の80歳・激痩せした母が緊急入院…疲弊困憊のなか60歳・引きこもり定年夫からの「僕のご飯は?」→53歳・限界妻が取った〈最後の手段〉【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

笑顔が戻った夫と母親

Aさん夫婦はAさんの実家でしばらく過ごすことになりました。日中は病院で母親の面倒を看ているAさんに対し、Aさんの夫は実家でお留守番の毎日です。ですが、マンションの息子の部屋と違い、漫画もDVDもゲームもない暗いこの家はさすがに一人で居続けるのは苦痛でした。

 

そのうちAさんの夫は海まで散歩に出るようになります。ある日、夕食を二人で食べていると、「今日は釣りをしている人と話をしたんだ」と珍しく話しかけてきました。

 

「僕も子どものころはよく釣りをしたんだ。また始めようかな。釣りの道具を買ってもいい?」と聞いてきました。Aさんは、「もうすぐマンションに帰るじゃないの」と言いかけましたが、これで夫が外に出るようになるなら、と「そうね。明日、買いに行けばいいんじゃない?」と言いました。

 

夫は下を向きながら少しだけ微笑み、Aさんは久しぶりに夫の笑顔を見ることができました。

 

その後Aさんは、周りに建物が多いマンションよりも実家に越してきたほうが、夫にとっても母親にとってもいいのではないか、と考えるようになります。夫は喜んで賛成し、今回の入院ですっかり心細くなった母親も快諾します。マンションを売却し、そのお金で家をリフォームして3人で住むことにしました。

 

母親を心配していた兄夫婦もとても喜んでくれました。働くことが好きなAさんは、同じ系列のコンビニが実家の近くにあったため、そちらに移って仕事を続けることにしました。

 

家のリフォームが終わり、引っ越ししたあとも夫はあいかわらず働きには出ませんが、Aさんが働いているあいだは母親の面倒をみてくれますし、釣ってきた魚を台所で一緒に立って料理してくれるようにもなりました。母親も食欲が出るようになり、いまは3人で笑いながら食卓を囲む毎日です。

 

「3人の暮らしも落ち着いてきたから、今度は家庭菜園にもチャレンジしようと思うの」と、Aさんは笑顔で言いました。

 

 

 

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表