老人ホームは介護が必要になったり、自宅での介護が難しくなったりしたら入居するところ、というイメージが強いですが、昨今は健康な人でも入居できる施設が増え、高齢者の住まいの選択肢のひとつとして人気が高まっています。そんな老人ホーム、気に入って入居したはずが退去を決めるケースも珍しくはありません。みていきましょう。
年金月16万円・元気が取り柄の77歳の母「老人ホームに入る」と仰天宣言…あれから5年、突然「ホームを出る」と嗚咽したワケ

65歳以上の高齢者の1.1%が「老人ホーム等」で暮らしている

内閣府『令和5年版 高齢社会白書』によると、65歳以上の住まいで最も多いのが「持ち家(一戸建て)」で75.6%。続いて「持ち家(マンション等の集合住宅)」が11.8%。「賃貸住宅(一戸建て)」2.0%、「賃貸住宅(アパート、マンション等)」8.4%。「高齢者向け住宅・施設」は1.1%でした。

 

これを実際の数値に当てはめてみると、65歳以上人口が3,623万人なので、老人ホーム等に入居しているのは40万人ほど、ということになります。

 

一方、65歳以上の高齢者に現在の健康状態をたずねたところ、「良くない」と回答したのは24.6%。60代後半で14.8%、70代前半で21.3%、70代後半で24.0%、80歳以上で36.0%と、年齢が高くなるほど、健康状態は「良くない」の回答が多くなっていきます。

 

年齢を重ねるごとに大きくなる健康不安。そこに「ひとり暮らし」という要素が加われば、誰もが漠然とした不安に襲われるものです。

 

そこで住まいの選択肢となるのが老人ホーム。介護が必要になったら考える施設という印象が強くありますが、昨今は、自立している人も入れる施設も増加。「セカンドライフを充実させてくれる老人ホーム」として徐々に人気が浸透しています。

 

女性が入居したのは、住居型有料老人ホームと分類される老人ホーム。自立~介護度の軽い人が対象となる施設で、介護が必要な場合は、基本的に外部のサービスを受けることが前提となっています。施設によって異なりますが、原則的に外出・外泊は自由とされ、特に制約を受けません。

 

女性の後日談。82歳になった母から、突然、「ホームを出たい。しばらく、家にいさせて(実家はすでに売却済み)」と連絡があったのだとか。

 

あんなに老人ホームでの生活を楽しんでいたのに……話を聞くと、施設長が変わったことで、ホームの雰囲気がガラリと変わってしまったのだとか。入居者に何かあるわけではありませんが、施設長は自分の部下に対して厳しく、そのせいで退職者が続出。最近は人手が足りないのか、サービスの質も落ちてきているといいます。

 

――なんか殺伐としていて。もう息が詰まりそうよ

――もう私が好きだったホームじゃないの……

 

話している途中から涙声になり、声を詰まらせる母。とりあえず女性宅に身を寄せ、新しいホームを探すことにしたといいます。

 

老人ホームも企業と同じ。トップによって雰囲気が変わったり方針が変わったりして、状況が変わることはことはゼロではありません。また経営母体が変わることで同様のことが起きることも。東京商工リサーチの調査によると、2023年の介護事業所の倒産件数は122件。2022年に次いで2番目に高い水準だといいます。経営企業が倒産した場合、施設は譲渡されることがほとんどで、入居者に不利益が生じることはそうそうありません。ただ雰囲気が変わったり入居費用の値上げが行われたりと、変化が生じることは避けられません。「気に入って入居を決めたホームだったのに……」という後悔も、珍しくはないのです。

 

[参考資料]

内閣府『令和5年版 高齢社会白書』