日本には「浸かる」だけではなく、さまざまな入浴法がありますが、そのなかでも、日本の風呂の原点ともいわれるのが「蒸し湯」。蒸し湯は、「今、ブームとなっているサウナや、岩盤浴とも密接な関係にある」と、温泉学者であり、医学博士でもある松田忠徳氏はいいます。松田氏の著書『全国温泉大全: 湯めぐりをもっと楽しむ極意』より、詳しく見ていきましょう。
サウナー必見!ご当地「蒸し湯」7選
■蒸し風呂
群馬県の四万温泉は、かつては関東を代表する湯治場で、現在でも全国的に見ると湯治客用の施設は多い方です。
この四万温泉に、五代将軍綱吉の時代に蒸し湯があったことを伝える古文書が残されています。元禄七(1694)年創業の「積善館」に伝わる「蒸し湯」もその流れをくむものと思われます。昭和五(1930)年に建て替えられた国の登録有形文化財「元禄の湯」の蒸し風呂のことです。
■箱蒸し
首だけを外に出して箱の中で体が蒸される、いわば半蒸し風呂です。
300年の歴史をもつ秋田県後生掛温泉の一軒宿「後生掛温泉」の「箱蒸し風呂」が有名。蒸し風呂と比べ長時間入浴できる利点があります。蒸し湯の入浴時間は一般に10~20分ですが、箱蒸し風呂ですと30分前後は大丈夫でしょう。
■ふかし湯
その代表は青森県の酸ヶ湯温泉名物「まんじゅうふかし」で、「子宝の湯」とも呼ばれています。95度の高温泉が樋で流され、その上にかけた木の蓋が一見ベンチ風に2列並んでおり、服を着たまま腰かけたり腹ばいになっていると、体の深部までじんわり温まってきます。
若返り効果の他にも、胃腸、婦人病、痔疾にも効果てきめんと、知る人ぞ知る評判の蒸し湯です。
ふかし湯といえば、山形県の瀬見温泉街にある瀬見温泉共同浴場「せみの湯」もユニークです。かつては「痔蒸し」と呼ばれるほど、痔疾専用の蒸し湯で知られていました。
総檜造りの室内の床に直径4センチほどの穴が開けられていて、蓋をとるとそこから蒸気が噴き出てきます。床下に高温泉が流れている簡単な仕組みです。この穴の上にタオルを敷いて、浴衣などを着たままお尻をつけて座ったり、仰向けに寝ると患部に蒸気が当たり効果は抜群です。腰痛や婦人病などにも効能が知られています。
■砂むし
南九州にわが国独特の「砂むし」があります。鹿児島県の指宿温泉が有名です。
指宿の300年前から知られる天然砂むし温泉場、砂むし会館「砂楽」は、1キロメートルにわたる砂浜で、錦江湾の波に洗われた砂の中に横になり、最高85度のナトリウム―塩化物泉(食塩泉)で温められた砂を、「砂かけさん」に首から下にかけてもらうものです。しばらくじっとしていると砂の熱と砂圧で、どっと汗が噴き出します。砂浴時間の目安は約10分です。
温泉浴と比べ体の深部体温が上がることが地元鹿児島大学医学部の検証で確認されており、幅広い効能が知られ根強い人気です。外国人からは「和風サウナ」と好評のようです。
関節リウマチ、関節痛、腰痛、五十肩、膝関節痛、神経痛、筋肉痛、冷え性、脳卒中後の麻痺、全身美容デトックスなどに効果的です。ただし、心臓病や高血圧症の方は避けてください。
■地むし
地熱そのものに蒸される入浴法で、先にご紹介した玉川温泉の岩盤浴はかつては「地むし」と呼ばれていました。岩手県須川高原温泉の「おいらん風呂」も蒸気が出る地面の上にゴザを敷いて横になる古くから伝わる入浴法(天然蒸気ふかし湯)です。
オンドル浴
「箱蒸し」でご紹介した秋田県後生掛温泉の「オンドル浴」も地むしの一種でしょう。
後生掛温泉では地熱帯に「オンドル宿舎」と呼ばれる部屋があり、温泉の成分を含んだ湿気で常時部屋が満たされています。温泉浴をしながら、さらにこの部屋で寝泊まりすることで体温を上げ、自然治癒力を高めます。
自炊が基本で、和気あいあいとおしゃべりしたり、助け合ったりして、共同生活することで心身の活力を取り戻す、根強い人気の入浴法です。
松田 忠徳
温泉学者、医学博士