家賃を払うより安いからと「フルローンで住宅購入」はありか?
東京市部の賃貸マンションに家族3人で住む、30代後半のサラリーマン。更新のタイミングで家賃の値上げを通告されたとか。
――家賃月15万円が2万円の値上げ……キツイ
そんな投稿に対し、「そんなに家賃を払うなら買えば」というアドバイスも。本人もそう思ったのか、駅前にできるマンションのモデルルームに見学にいってみたのだとか。最低価格が6,000万円台。用意できる頭金は、せいぜい500万円。「ちょっと現実的じゃないな」と思ったいいますが、営業マンのセールストークに心揺れているといいます。
――家賃が月17万円⁉ ここならフルローンで買っても今の家賃と同じくらいですよ
仮に男性が、平均的な給与を得ている大卒サラリーマンだとしましょう。30代後半であれば、手当て込みの月収は42.1万円、年収は637.0万円です。
家を買う時の基準はいくつかありますが、そのひとつが年収倍率。年収に対して物件価格が何倍か、といったもので、平均は7倍程度。10倍までなら許容しても、といわれています。世帯収入=男性の給与だとすると、許容範囲内となります。
もうひとつが返済負担率。年間の返済額が年収に対して何割かというもので、20%前後が適正といわれています。該当の物件をフルローンで購入した場合を考えてみましょう。返済方式は元利均等、金利は0.5%、返済期間は35年だとすると、利息分は541万5,305円、月々の返済額は15万5,751円になります。
多少の誤差はありますが、値上げ前の家賃とそれほど遜色のない金額でマイホームを実現できる、というのは間違いではなさそうです。
現在、超低金利政策によって住宅ローン金利が非常に低く推移。各金融機関は多くの融資を実行するために、頭金の有無を融資条件から外す傾向にあります。そのためフルローンで住宅購入も珍しいことではありません。一方で、昨今、聞こえてくるのは「ゼロ金利の解除」。この先、住宅ローン金利の上昇も見込まれるので、いまはフルローンでマイホームを実現するには最後のチャンスという専門家も。
フルローンで住宅購入には「手元に現金を残せる」「即時購入ができる」というメリットがある一方で、「返済額が高くなる」「返済不能に陥る可能性がある」というデメリットもあります。
特に新築物件の場合、いわゆる“新築プレミアム”が上乗せされた販売価格になっているため、入居後にすぐに価格は下落。そうすると、購入後、すぐに売却に迫られたとしても、すでに残債割れに。住宅ローンを組んでいる物件を売却する際には売却金でローン残債を支払うのが一般的ですが、売却金では完済できず、新たな資金が必要となります。しかしフルローンで住宅購入を考える人のなかには、そもそも手元資金がないからという人も多く、八方塞がりになるケースも珍しくありません。
本来フルローンの活用に向いているのは、手元資金に余裕があり、何かの際には対応できる人。つまりフルローンを利用しなくても家を買える人だといえます。「お金がないからフルローン」というのは、破滅に向かっていると考えたほうがよさそうです。
[参考資料]
不動産経済研究所『全国 新築分譲マンション市場動向 2023年』