温泉と一口に言っても、「宿場系」「湯治場系」「秘湯系」と、その種類はさまざまです。とりわけ本物志向の温泉ファンに高い人気を誇るのが「秘湯系」で、「1980年代から始まった空前絶後の“秘湯ブーム”以来、日本人の間にすっかり定着している」と、温泉学者であり、医学博士でもある松田忠徳氏は言います。松田氏の著書『全国温泉大全: 湯めぐりをもっと楽しむ極意』より、詳しく見ていきましょう。
“本物の温泉”の代名詞=「秘湯系」
■法師温泉(群馬県みなかみ町)
群馬県の一軒宿の秘湯、法師温泉(群馬県)に代表される昭和50年代後半(1980年代)から始まる、空前絶後の“秘湯ブーム”以来、今日では秘湯という言葉は日本人の間にすっかり定着しています。「アクセスに恵まれない秘境の地や辺鄙な土地の、主に一軒宿の小さな温泉」を指す言葉です。
都市化された行楽・歓楽型の宿場系温泉街に飽き足らない、本物志向の温泉ファンに人気があります。本物志向とは、俗化度の低い本物の自然環境であり、その多くが“源泉かけ流し”、“自家源泉”などに象徴される本物の温泉の代名詞でもあります。これに地場産の新鮮な山の幸、海(川)の幸などの食材が加わります。
■乳頭温泉郷(秋田県仙北市)
乳頭温泉郷(秋田県)の評価が、わが国の温泉における秘湯の位置づけを確立させたといっても過言ではない、というのが私のかねてからの認識です。
田沢湖高原の奥、乳頭山麓の先達川が縫うように流れるブナの原生林のそこかしこから、濃い湯煙が上がります。鶴の湯温泉、大釜温泉、乳頭温泉、妙乃湯温泉、蟹場温泉、孫六温泉、黒湯温泉――。この七湯から成る乳頭温泉郷は「日本最後の秘湯」とも呼ばれ、その個性的な温泉と宿のたたずまいで、都会客を魅了し、今日に至っています。最近ではアクセスが不便にもかかわらず欧米人の姿もふえ、“HITO”は国際語になりつつあります。
温泉ファン必見!日本が誇る「秘湯中の秘湯」
法師温泉、乳頭温泉郷の他に、十勝岳温泉「湯元 凌雲閣」(北海道)、夏油温泉(岩手県)、姥湯温泉(山形県)、甲子温泉(福島県)、奥鬼怒温泉郷(栃木県)、中房温泉(長野県)、奈良田温泉(山梨県)、大牧温泉(富山県)、奥飛騨温泉郷(新穂高温泉)「槍見の湯槍見舘」(岐阜県)、祖谷温泉(徳島県)、地獄温泉(熊本県)など。これらは秘湯中の秘湯でしょう。
なかには大牧温泉「大牧温泉観光旅館」のように、庄川を船でしか行けない秘湯もあります。辺鄙な地にもかかわらず施設は驚くほど洗練され、料理も一般にイメージされるような秘湯の宿とは思えないレベルです。
松田 忠徳
温泉学者、医学博士