原則65歳から受け取れる年金を後ろ倒しで受け取ることにより、受給額を増やせる「年金の繰下げ受給」。しかしなかには、年金が増えても、繰下げ受給を選んだことを「失敗だった」と悔やむ人もいるとか……。いったいなぜでしょうか? 本記事では、Aさんの事例とともに年金繰下げ受給の落とし穴について、CFPの伊藤貴徳氏が解説します。
「年金繰下げ」の落とし穴…70歳からの受給で「月6万円増」のはずが…71歳おひとりさま男性「結局手取りが減った」の大失敗【CFPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

国民年金受給者の繰上げ・繰下げ受給状況の実態

生命保険文化センターの調査によると、年金繰上げと繰下げの割合については、「繰上げ受給は国民年金が27.0%、厚生年金が0.6%繰下げ受給は国民年金が1.8%、厚生年金が1.2%」となっています(2021年時点)。
 

現在は繰上げを選択する方の割合が多いですが、繰下げ受給者の割合は1%台です。ただ、繰下げ可能年齢が75歳まで拡大されたのに加え、積立NISA、iDeCoなどの普及により年金を確保する方法が増え、今後は繰下げを選ぶ人が増えることが予想されます。


ここで大切なのは、「年金が増えるから繰り下げる」という考え方ではなく、「現在の収入と支出のバランスを計算して、年金を受給して補う必要があるかどうか」という考え方です。
 

たとえば、現在も働いていて給料だけで生活ができているのであれば、年金を申請してまで受給する必要性は低いです。
 

増額できるからという理由のみで年金の支給を遅らせ、そのために生活を切り詰めなければならない……という状態はあってはならないですし、逆に繰り上げて受給することで余分な支出を増やすようなことも避けなくてはいけません。

 

シンプルな「年金はいま必要か、必要ではないか」の判断基準

Aさんは現在も仕事を続けており、収入だけで生活ができていたために、年金を70歳まで請求しませんでした。
 

結果として繰下げ受給したときに手取りが減少してしまうという誤算が生じたため、Aさんは大失敗だったと悔やんでいました。しかし、生活を切り詰めたわけではなく、無理なく繰下げができていたので、結果として、繰下げの選択は悪くなかったともいえるでしょう。


体力的な限界や衰えにより、いずれ仕事を辞めるタイミングがやってくると思います。そのとき、年金収入だけでの生活に切り替わりますが、Aさんは年金収入だけでも暮らしていけそうです。年金だけの生活になったときに、繰下げをしていてよかった、と思うかもしれません。

 

 

 

伊藤 貴徳
伊藤FPオフィス
代表