厚生労働省によると、65歳以上の生活保護受給者は増加し続けているそうです(2022年6月3日公表:生活保護制度の現状について)。一方、生活は苦しいけれど生活保護を受けていない(または受けられない)高齢者もいます。そこで、生活保護の受給資格や各種保険、その他国・自治体の制度について、牧野FP事務所の牧野寿和CFPが具体的な事例を通して解説します。
年金月14万円の65歳男性、テレビに向かって思わず「羨ましい」…増える〈高齢者の生活保護受給〉に恨み節【CFPの助言】
家族全員高齢者…A家の「最善策」は
在宅介護の背景にあった「父のこだわり」
とはいえ、在宅介護が苦しいと話すAさん。次に、父の介護や両親の生活の問題にフォーカスを当ててみましょう。
退院後、高齢者施設に入れずに在宅介護になった背景には、父の「こだわり」がありました。父は以前から、「たとえ寝たきりになっても俺は自宅にいたい」と家族に伝えていたそうです。
介護がつらく、Aさんは何度か父に施設を勧めたこともありましたが、母も「お父さんが家にいたいと言っているんだし、ヘルパーさんの手を借りながら自宅で頑張りましょう」となだめます。両親の考えはいまも変わっていないそうです。
しかし、もし今後、父の介護度が要介護度5※1まで進んだ場合、在宅であっても月額の介護費用は10万6,000円※2必要です。支出額がいまより増えると、年金収入だけでの生活は厳しく、貯蓄を取り崩すことになりかねません。
※1 要介護5の居宅介護サービスの利用限度額は1ヵ月36万2,170円。3万6,217円は自己負担(1割の場合)。
※2「要介護度5」の費用平均月額(公的介護保険サービスの自己負担費用を含む、生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」/2021(令和3)年度より)。
また、要介護度5の方を在宅で介護するには限界があります。
そこで、Aさんのお考えどおり、要介護度3のいまのうちに、介護付き有料老人ホームや特別養護老人ホーム(特養)に入居する準備が必要かもしれません。
バブル期に契約した“お宝”終身保険が活用できる
資金面は、現在Aさんも両親も、死亡保険金1,000万円医療特約付きの終身保険に加入しています。この保険はいわゆる“お宝保険”といわれる、バブル時代から1990年前半に契約した予定利率の高い保険です。
被保険者が死亡したときは、通常相続人が死亡保険金1,000万円を受け取ります。
また、保険会社に確認が必要ですが、解約したら死亡保険金と同額の1,000万円またはそれ以上の解約返戻金が受け取れる可能性もあります。そこで、父の終身保険をこのタイミングで解約して、解約返戻金を施設入居の資金に活用するのもひとつの手です。
また、87歳の母は、いまは健康であっても注意が必要な年齢です。ただし、母が病気などで入院しても、母も終身保険に加入していますので、父が入院したときと同様費用の心配はあまりありません。
また母の介護費用が必要になったときは、母も終身保険(保険金1,000万円)を解約してもいいでしょう。なお、それまでに万が一父が亡くなっていたら、母は遺族厚生年金と自分の年金で約199万7,100円(月額16万6,425円)受給できます。
ただし、この終身保険を解約すると、医療給付などの特約も解約されます。入院したときの終身保険からの入院給付はなくなりますが、父と同様に後期高齢者医療制度の高額療養費が、また介護保険でも、所得によって自己負担額の上限が決まっている制度もあります。
筆者の話を聞き、落ち着きを取り戻したAさん
またAさんは現在独身ですが、このまま単身で生活する人生設計なら、自宅の土地も建物も広すぎ、固定資産税など経費も生涯かかります。
そこで、両親が亡くなったあとは、自宅の土地建物を売却してその資金で、生涯住めるマンションや平屋の住宅を借りるか、購入してもいいでしょう。
筆者がここまで話すとAさんは、「そうか、必ずしも自宅に住まなくてもいいんだ!」と、勝手に自縛していた人生に気づき、両親の面倒を見ることも気が楽になったそうです。
生活保護を必要としている人も、現状を打開する手段として断腸の思いで利用しているのであり、生涯、生活保護の状態で終わることはないでしょう。「一瞬でも、生活保護を羨ましいと思ってしまった自分を恥ずかしいです」。Aさんはそう言い、苦笑いしたのでした。
牧野 寿和
牧野FP事務所合同会社
代表社員