高齢者を犯罪へと駆り立てる「生活苦」と「孤立・孤独」
食べ物を万引きする高齢者。
――食べ物も買えない、だから盗むしかない
高齢者を取り巻く、厳しい現状が見えてきます。
厚生労働省『令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、厚生年金受給者の年金受給額は、併給の国民年金と合わせて平均月14万4,982円。さらに受給額の分布をみていくと、厚生年金受給者で年金月10万円に満たない人は22.7%と5人に1人以上。また60代後半の高齢者が東京都23区で生きていくために最低限必要なお金である「生活扶助基準額=7万6,880円」を下回る「年金月7万円未満」の人は、厚生年金受給者の5.6%ほどいます。厚生年金受給者は3,700万人ほどなので、年金10万円未満は800万人以上、東京都23区の生活扶助基準額を下回る高齢者は200万人程度になる計算です。
ほかに収入があれば年金が低くても問題はありません。しかし総所得の100%が年金という高齢者は44.0%。低年金なうえ、ほかに収入を得る手段もない高齢者は、相当数にのぼるのです。
また高齢者が犯罪に手を染めてしまうのは、低収入による生活困窮に加えてもうひとつ、「社会的孤立」が要因だと指摘されています。低年金で生活が困窮している場合、生活保護という最後のセーフティネットがあります。年金が最低生活費を下回り、その最低生活費を下回る貯蓄しかない場合などは、最低生活費と年金との差額が支給され、最低限度の生活を送れるようになります。生活保護を希望する場合、まずは役所の担当部署やケースワーカーに相談をするのが第一歩。しかし社会から孤立していると相談すべき相手が誰かもわからず、ただ困窮状態に耐えるしかなくなり、一線を超えてしまうのです。
さらに法務省『平成30年版 犯罪白書』で、高齢受刑者で出所後の帰住先が更生保護施設等である者と帰住先が不明等である者について5年以内の再入率をみていくと、帰住先が不明であるほうがはるかに再入率が高いと指摘しています。つまり出所後に頼るべき親族等がおらず、社会的に孤立していると、再び犯罪に手を染めてしまいやすいのです。
低年金で生活困窮、さらに社会から孤立し万引きを繰り返してしまう高齢者たち。これから年金が目減りすることは既定路線であり、高齢者の家計はいっそう厳しくなることが予想されます。頑張って生きてきた先で哀しい犯罪に手を染めることがないよう、高齢者への支援はもちろん、これから老後を見据えて資産を築いていかなければならない現役世代への支援も必要だといえるでしょう。
[参考資料]