年金の受給は原則65歳ですが、希望すれば60歳から65歳までの間で早く受け取ることができる「年金の繰上げ受給」という制度があります。繰り上げた分だけ減額されるものの、その分、不安定な家計を補填できるなどのメリットも。しかし自身の決断とはいえ、後悔することも多いといいます。みていきましょう。
男は短命だから年金の繰上げ受給がお得だよ…年金「月12万円」を受け取る60歳定年サラリーマン、自らの選択を後悔するワケ

男は「年金を繰り上げたほうが得する」は本当か?

厚生年金受給者のうち、繰上げ受給している人は20万6,757人。年金受給者2,800万人の0.7%です。会社員の8割が継続雇用を希望していることからも、繰上げ受給者が極少数なのも納得です。

 

そんな「年金の繰上げ受給」に関してこんな主張。

 

――男の平均寿命から考えると、年金は早く受け取ったほうが得

 

2023年の日本人の平均寿命は男性で81.05年、女性で87.09年。確かに女性に比べて男性のほうが短命です。

 

「年金、早くもらうほうが得か、遅くもらうほうが得か」の議論はよく行われていますが、65歳での受給額を100とするとし、5年早く受け取ることで24%減額となることを換算すると、100✕5年÷24%=20.83333(年)。つまり60歳から20年10ヵ月ほどあと、80歳10ヵ月以降は、65歳で年金を受け取った場合の総支給額のほうが多くなります。ただしこれは額面で考えた場合。手取りで考えた場合の損益分岐点は、60歳で受給開始であれば82歳2ヵ月。男性の平均寿命を超えているので「年金の繰上げ受給」のほうがお得に感じられます。

 

では次に「生存率」で考えてみましょう。男性が80歳まで生きられる確率=生存率は55.3%。81歳で51.8%、82歳が48.2%。平均寿命で考えた場合と若干のずれがあり、60歳で年金を受け取るのが得か損か、ギリギリのラインといったところでしょうか。

 

さらにある年齢で平均何年生きられるかという「平均余命」で考えてみましょう。60歳時点での男性の平均余命は23.59歳。つまり、60歳男性は平均してあと23年ほど、83歳までは生きられるということです。つまり「男は短命だから年金は繰上げ受給が得!」と、60歳から年金を受け取り始めた定年サラリーマンは、結果的に損をする可能性が高いといえるのです。

 

いろいろな考え方がありますが、想定よりも長生きをすれば「繰上げ受給なんてするんじゃなかった!」と後悔することになるのは当たり前のこと。そもそも、人の寿命は誰にも分からないもの。損か得か、人それぞれ亡くなった後でないと分からないもの。そう考えると、個々が「年金があると助かる」といったタイミングで申請するのがベストだといえるでしょう。

 

[参考資料]

日本年金機構『年金の繰上げ受給』

厚生労働省『令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況』

厚生労働省『令和4年簡易生命表』