2024年1月16日、法制審議会の区分所有法制部会は区分所有法の改正要綱案をまとめました。これは、マンション住民にとって、非常に重要な改正となります。本記事ではマンションの老朽化の現状と今後について、FP1級の川淵ゆかり氏が解説します。
高齢住民「わたしが生きているあいだは壊さないで」…マンション住まいの全国1,500万人が直面する恐ろしい事態【マンション法改正】 (※写真はイメージです/PIXTA)

建て替えができないと…

マンションの高齢者割合が高くなることで、所有者が亡くなった際に、

 

・相続人が不明で所有者がわからなくなる。
・空き室になる。

 

といった事例も増えています。現行法では、所在不明者も修繕や建て替えの決議では「反対」と扱われてしまい、建て替え等にはハードルが高くなってしまっています。

 

建て替えができないと、住民にとっての安全性が損なわれるのはもちろん、部屋を売却しようと思っても「古くて買い手が付かない」といったことになり、資産価値を大きく損なうことになってしまっています。

マンション建て替え要件緩和の概要

以上のような理由から法制審議会(法相の諮問機関)の区分所有法制部会は2024年1月16日に、老朽化した分譲マンションの建て替えを円滑化するため、決議に必要な所有者の合意割合を現在の「5分の4以上」から次のような条件付きで「決議出席者での4分の3以上」に引き下げる区分所有法改正に向けた要綱案をまとめました。


条件付きとなったのは、反対者の権利制限につながる恐れもあるためです。これにより、次のいずれかの問題がある場合、所在不明者を除いた4分の3の賛成で建て替えが可能となります。
 

1.耐震性不足
2.火災への安全性不足(防火性)
3.外壁剥落等の危険性
4.給排水設備など衛生上の問題
5.バリアフリー不適合

 

ほかにも被災マンション法の改正で、大規模災害で被災したマンションの取り壊しや敷地売却について、合意要件を5分の4から3分の2への引き下げや、決議可能な期間も1年から3年への延長も含まれています。

タワーマンションの老朽化も問題

20階以上のタワーマンションは全国で約1,500棟あるといわれ、そのうちのおよそ400棟がすでに築20年以上経過しており、大規模な修繕を見据えた今後の計画が必要です。


タワーマンションは投機目的で購入する人も多く、なかには海外居住者や集会に参加しない人もいます。今回の法改正では、決議への欠席者は判定から除かれるようになりますが、ほかにも海外居住者のために国内で代理人を選べるようにもなります。


「100年は大丈夫」と謳っているマンションもあるようですが、やはり20年も経てば古くなり資産価値は下がってきますし、30年も過ぎればあちこち痛みも目立ってきます。タワーマンションのような高層マンションは、修繕にも大きなお金がかかるため、費用面でも将来に向け、しっかりとした計画が必要です。

マンション建て替えの今後の課題

なお、資材の高騰や人手不足による人件費の高騰で、建て替えの費用は今後も膨らむ可能性は大きいため、住民の所得水準によって合意が得られるかどうかは変わってくると考えられます。今後は建て替えに伴う住民の費用の負担を大きくならないようにしなければ、建て替えの賛成派は大きく増えないとも考えられます。

 

ちなみに国土交通省の調べによると、下記のグラフのように、マンションの建て替え時の平均負担額は1997年~2001年までが378万円だったのに対し、2017年~2021年までの平均負担額は1,941万円と5倍以上に急増しています。
 

国土交通省 マンションを取り巻く現状について(1)より引用
[図表4]マンション建て替え事業の実施年代別 区分所有者の平均負担額 国土交通省 マンションを取り巻く現状について(1)より引用

 

また、前述のように古いマンションほど所有者の高齢者の割合は高いため、これからもマンション内での高齢者化が進むと、「思い出を壊さないでほしい」「生きているあいだはこのままでいい」といった意見が多くなり、やはり建て替えがスムーズにいかないケースも出てくるのではないか、と考えられます。

 

高齢者の場合は引っ越しだけでも大変ですし、マンションの建て替えは準備~実行までに非常に長い期間が必要です。住民同士の話し合いはますます重要になってきます。
 

<参考>

・築40年以上のマンションの推移(国土交通省HP)

https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001623967.pdf
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000058.html

 

・マンションの世帯主の年齢(国土交通省)

https://www.mlit.go.jp/common/001287570.pdf

 

・マンション建て替え事業の実施年代別 区分所有者の平均負担額(国土交通省)

https://www.moj.go.jp/content/001385377.pdf

 

 

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表