終の棲家の候補に挙げられる「老人ホーム」。入居の理由はさまざまありますが、その際悩むのが「いつ、入居すべきか」という点です。本記事では、老人ホーム事業を営む株式会社ハピネスランズの代表であり老後資金アドバイザーの伊藤敬子氏が、老人ホームへ入居する最適なタイミングについて、事例を交えて解説します。
胸が張り裂けそうです…年金月23万円、老老介護で限界の80代両親を「老人ホーム」へ入居させた50代長男の後悔 (※写真はイメージです/PIXTA)

入居例2:老老介護に限界を感じて入居したHさん夫婦のケース

次に、残念ながら上手くいかなかった例として、Hさんのケースを見てみましょう。

 

Hさん夫婦は年金月23万円で生計を維持し、88歳までの約20年間、59歳の長男の近居で暮らしていましたが、Hさんの米寿をきっかけに長女の近くの老人ホームに入居しました。

 

入居先として選ばれたのは、サービスがとても手厚く、レクリエーションも多い介護付きの有料老人ホームでした。長男は非常に親孝行な人で、両親には広々とした自慢の自宅で少しでも長く過ごしてもらいたいという思いから、週末の度に両親の趣味であるお庭や野菜作りを手伝ってあげるほどでした。

 

ただ、Hさんは10年前から脳梗塞で半身不随となった妻のお世話で疲労しており、せっかくの2人一緒に入居できた老人ホームにもかかわらず、入居してまもなくHさんは肺炎で亡くなりました。

 

「胸が張り裂けそうです。近くに住んでいるから、なにかあったら助けてあげられるし、思い出の家で母となるべく長く過ごしたいという父の意向を尊重していました。でも、家族の介護では限界があったようです。もう少し早くに決断していれば……」Hさんの長男は嘆きます。

 

Hさんの負担は限界だったのでしょう。入居があと1年早かったら、もう少し2人仲よく新しい仲間と合唱や絵画など楽しむ時間が持てたのではないかと、残念でなりません。

 

実はいま最も多くの家庭で起きているのは、Hさんのようなケースなのです。2世帯同居やお子様との同居といった状況で、高齢の両親のことを思ってギリギリまで家族が家族介護をしてしまうことで、逆に老人ホームの最適な入居時期を逃してしまうというケースがあとを絶ちません。

人生100年時代に老人ホームの利用は誰しも避けられない

人生100年時代、実に日本の100歳以上の人口は9万2,139人(厚生労働省 R5百歳プレスリリースより)つまり約9万人近くの方たちが、程度に差はあれど、100歳以上の親のお世話をしているわけです。筆者の老人ホームにも70代の子世代が体力の限界を感じて、老人ホーム探しによくいらっしゃいます。一番驚いたのは98歳の母親が脳梗塞になってしまった75歳の自分の子どものために老人ホームを探しにいらした例です。

 

75歳以上を後期高齢者と呼びますが、さすがにその年代になると、自分のお世話だけも大変です。それにもかかわらず、親のお世話をするのはもっと大変ですから、現代においては、誰しもが老人ホームを必要とするといっても過言ではないでしょう。

 

むしろ注意すべきは、家族介護で限界まで我慢することで、お世話される側の高齢者が新しい環境に慣れるチャンスを奪ってしまうということです。