親を老人ホームに入れる必要があるが、お金がない……。そんなときに思い浮かぶのは、民間経営の有料老人ホームに比べて安い利用料で賄える「特養」でしょう。しかし特養の待機期間は、平均して2~3年ともいわれています。親の状態をみるに、急を要する場合、どうすればできるだけ早く特養へ入所させることができるのでしょうか? 本記事では、特養へ入りやすくなるポイントとともに、民間の有料老人ホームとの違いについて、老人ホーム事業を営む株式会社ハピネスランズの代表であり老後資金アドバイザーの伊藤敬子氏が解説します。
年金7万円の賃貸で一人暮らしの80代母、老人ホームに入所させたいが貯金がない…安い「特養」に入りやすくなる“裏ワザ”とは?注意点とともに解説 (※写真はイメージです/PIXTA)

自分の親に合ったホームを選ぶには?

貯金がなく、有料老人ホームに入居する場合、最も多いのは家を売るというケースです。しかし持ち家がない賃貸にお住まいの方や貯金のない方は、どうしたらいいのでしょうか? 

 

父が逝去し、年金月7万円で賃貸暮らしの80代母は売る家も貯金もなし。老人ホームに入れるにはどうすればいい?

実はこうした介護難民と呼ばれる方たちは、小規模多機能(デイサービスや訪問介護サービスを一体化させた施設)のお泊りサービスをホテル代わりに使ったり、老健などのいわゆる「リハビリ病院」を3ヵ月ごとに点々と住み替え続けたりする方がほとんどです。ただ小規模多機能は、基本的には日中のデイサービス利用者の方が旅行などで家族介護が難しいとき、つまり困ったときだけ利用するのが原則です。

 

また、特養はその施設が運営するショートステイを多用すると、入所しやすくなります。特養側としては、ショートステイを利用してもらえれば入居者の性格やお世話のコツを把握することができます。同じ入居希望者なら、家族も問題なし、本人も優等生、という方に入ってもらいたいというのは施設側の本音です。

 

実は何気なく使っているショートステイも、利用者にとっては「困ったときに被介護者をあずかってもらえる便利な仕組み」というだけでなく、「本入居前の大切な面談期間」であることを知っておいたほうがよいと思います。その段階をクリアした「知っている入居希望者に入居してもらう」ことが施設側にとっても結果的に「受け入れ態勢」を整えやすく、安心して入居者様に入所してもらって、スムーズな施設運営を続けることに繋がるのです。

介護付き有料老人ホーム(民間)と特養(公的)のサービスの差

ここでは、厳密性を欠くことを承知で、超ビギナー向きにわかりやすく説明するため、多くの方が「とても高額で入居できない」と感じている「民間」が運営する施設、

 

1.介護付き有料老人ホーム

2.住宅型有料老人ホーム

3.サービス付き高齢者住宅

 

などをあえて「有料老人ホーム」とくくり、「有老」と表現します(法律的な意味合いとは違いますのでご了承ください)。それに対し、比較的利用料は低額だが、人気がありすぎてなかなか入れない施設の代表格を「特別養護老人ホーム」とし、「特養」と表現します。

 

下記表にて、そのサービスにおける特徴の差をみていきましょう。

 

出所:筆者作成
[図表]介護付き有料老人ホーム(民間)と特養(公的)の違い 出所:筆者作成

 

高齢者が多すぎる現代において特養は、ヘルパーを使った在宅サービスや家族介護がどうしても続けられないぐらい介護の頻度が多く、お世話が困難になった方を受け入れるための、最後の砦です。

 

たとえば、夜中に4回トイレに起きてしまうシニアの方がいたとして、家族がそれに毎回付き合っていたとします。しかし、「特養に入ればスタッフが家族のようにその代わりをしてくれる」というものではありません。

 

むしろ逆で、自宅では排泄を自分でできていたとしても、特養や老健では排泄はオムツにしてもらうのが通常となります。それが、安全で限られた人材で提供できるプロの仕事なのです。またそもそも、昔の特養ではユニットケアといって個室がほとんどなく、病院のように相部屋でした。最近は人権尊重の立場から、厚労省は特養にもトイレの付いた個室を増やそうとしています。

 

一方「有老」であれば、基本個室です。自分の部屋にトイレがついていて、夜間、周りを気にせずに「自分でトイレに行きやすい自由」が得られます。しかし先ほどのように夜中転倒リスクがある方には、やはり排泄はオムツにしてもらうのが通常となります。家族介護と施設介護は基本がまったく違ってくるのです。

 

有老と特養のこの大きな差は、有老であればまさに民間の企業としてサービスの差やコンセプトの明確さで生き残りをかけているのに対し、特養は経営的に潰れる心配がない代わりに介護機能の「最後の砦」として社会的責任を負っていることではないかと筆者は考えています。民間サービスとしての「有老」が「ラグジュアリー重視」「医療重視」「コスパ重視」などの特徴を際立させているのに対し、公的サービス代表の「特養」はそれどころでないのでしょう。

 

また、特養や認知症グループホームをたとえ社会福祉法人が運営しているとしても、法人であるため、行政運営というわけではなく、運営者の倫理や法人の理念が組織に大きく反映されます。サービスにおいて、「介護付き有料老人ホーム=民間」「特養=公的」だから差があるのではなく、どんな組織もその運営者の熱い思いが施設のカラーとなっているのです。そのことを踏まえて施設を見学し、住み心地を見定めてください。

 

理事長や施設長、職員が書いているブログのホームページなど見て、どんなことを大切にしているのか調べることで、見学の時の雰囲気と合わせて大切にしている理念を知ることができます。さらに施設を見学したあと、体験入居すれば住み心地は一目瞭然です。