「老人ホーム」は老後の住まいの有力な選択肢。特に介護が必要であったり、高齢者の1人暮らしだった場合、ホームに入居することで大きな安心感を得ることができます。しかし入居したら誰もが安心できるかといえば、そうではないようです。
老人ホーム入居の80代父、深夜の電話で「悔しい」と嗚咽…駆けつけた50代娘が抱いた「とてつもない違和感」 (※写真はイメージです/PIXTA)

父からのSOSに「老人ホーム」に駆けつけた娘…そこで分かった施設の実情

認知症と告げられた、1人暮らしの父親。遠く離れた暮らす娘ととしては、施設に入居してもらったほうが安心です。しかし「施設に入ったからといって安心はできない」と女性。きっかけは深夜にかかってきた一本の電話だったといいます。

 

――こんな夜中に、と思ったら父から。ホームの職員に「叩かれた」と声を震わせていた

 

衝撃的な内容に、思わず耳を疑ったという女性。父親も興奮をしているのか「叩かれた、悔しい」と泣きながら繰り返すばかり。なだめながら状況を聞き出したところ、どうやら父は粗相をしてしまい、片づけをしてくれた職員からひどく叱られ、その際に手も出たということが分かりました。

 

その週末、女性はホームに事情を聞きに行ったといいます。しかし、施設側からは「お父さん、最近、症状が進んじゃって。たまにそう言って泣くことがあるんです」と、叱ってもいないし叩いてもいないと回答。確かに、父と会話していて、少し症状が進んだと感じたと女性。しかし、この日、施設を訪れて抱いたのは、大きな違和感でした。

 

――前とは何かが違う。とてつもない違和感を覚えるけど、何かは分からなかった

 

気のせいかと思って、父の元に戻ろうと思ったとき、「もう、本当にやめて! 忙しいんだから!」という怒鳴り声。何かと思ったら、ホームの職員だったといいます。

 

――同じように、粗相をした入居者がいて、ヒステリックに大声をあげている職員がいた。それで違和感の正体が分かった。明らかに、以前きたときよりも職員が少なく、忙しそう

 

あとで分かったのは、一気に大量に職員が離職し、現場の負担が急激に増していること。このことと父への暴力疑惑が結びつける証拠があるわけではありませんでしたが、このままでは父親を安心して預けられないと、転居を決めたといいます。

 

厚生労働省『高齢者虐待の実態把握等のための調査研究事業 報告書』によると、2020年、養介護施設従事者等による高齢者虐待の相談・通報件数は2,097件。虐待と判断されたのは595件でした。「施設職員」からの通報が最も多く、件数全体の26.7%。「家族や親族」は13.9%、「本人」は2.6%でした。施設ごとにみていくと、「特別養護老人ホーム」が最も多く、件数全体の24.2%。住宅型有料老人ホームが17.9%、認知症対応型のグループホームが13.5%、介護型有料老人ホームが13.0%と続きます。

 

また虐待の内容で最も多いのが「緊急やむを得ない場合以外の身体拘束」で被害者全体の24.7%。「暴力的行為」19.8%「威嚇的な発言、態度」14.7%、「わいせつ行為」」11.4%と続きます。

 

なぜホームで入居者への虐待事件が起きてしまうのか。その一因としてあげられるのが人手不足。実際に「人手が足りず忙しく、イライラしてしまって、入居に当たってしまった」と供述している虐待事件の容疑者がいました。

 

公益財団法人介護労働安定センターによる調査によると、人手不足を感じる事業所は全体で 66.3%。近年高止まり状態で、現場からは悲痛な叫びが聞こえてきます。国をあげて解決を急いでいるものの、なかなか成果に繋がらず、一方で高齢化の加速で施設のニーズは高まるばかり。さらなる人手不足感の悪化が懸念されています。

 

ときに死亡事故・事件に至ってしまう、老人ホームでの高齢者虐待。悲劇を繰り返さないためにも、老人ホームの人手不足は、解消すべき問題です。

 

[参考資料]

株式会社LIFULL senior『介護施設入居に関する実態調査 2023年度』

厚生労働省『高齢者虐待の実態把握等のための調査研究事業 報告書』

公益財団法人介護労働安定センター『令和4年度 介護労働実態調査』