(※画像はイメージです/PIXTA)

家族形態の変化、都市部への労働人口の流出などで、年々、1人暮らしの高齢者は増えています。都会で働く子世代が、地方で暮らす親を心配するケースも増えています。どんな準備や対策が考えられるでしょうか。

1.成年後見人の制度は「誤った理解」も多く…

(※写真=PIXTA)
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おひとりさまとなった高齢の親への懸念として、真っ先に思い浮かぶのが「認知症」の問題でしょう。子どもがつきっきりで見守れる状況にあればいいのですが、仕事や子育てで多忙な日々を送っている子世代にとって、なかなか難しい問題です。

 

そのような状況下、親の銀行預金等を管理する手段として、まず成年後見制度を考える人が多いと思われます。司法書士である筆者にも「とりあえず後見人を選んでおけば、後はなんとかなるのでは?」というご相談は多いですし、「後見人になっておけば、後は親の財産は自由に扱える」という考えの方もいらっしゃいます。

 

一方で、明らかに意思能力に問題のない高齢者の方から「身体がしんどくて、銀行に行くのもおっくうになってきたので、後見人になってほしい」と頼まれたこともあります。

 

この成年後見人の制度については、誤った理解も多いのが現状です。改めて成年後見について記してある民法の条文を見てみると、正確な理解ができるでしょう。

 

民法第7条

 

精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。

 

つまり、法律の考えでは成年後見人が選ばれる段階というのは、すでに対象者が「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況(原文)」にあるということです。対象者がこの状況になってしまうと、やはり通常の成年後見制度しか手段として取ることができないのが現状といえます。

 

1-1.万が一に先立つ「任意後見制度」

一方、本記事をご覧の皆様の多くは、自分の親やご親族が「まだなんとか1人で暮らしてはいるけど、先々が不安…」「最近、少し認知症の初期症状がみられる…」といった心配を抱えた方が多いのではないでしょうか。

 

この成年後見人を予め選んでおく方法としては「任意後見契約」が考えられます。

 

任意後見とは、成年後見制度のひとつの類型です。自分が元気で判断力があるうちに、認知症になったときに備えて、自分の代わりにお金の管理や、各種の契約をしてくれる人を選んでおく制度です。

 

任意後見契約はあくまで「契約」ですので、任意後見人となる側はもちろん、任意後見をお願いする側も、判断能力があるうちに、双方の合意の下で契約を交わす必要があります。

 

では任意後見契約を結び、実際に認知症が進行するまでは、身内の方の財産を管理したりする方法や制度はないのでしょうか?

2.任意後見の前段階にある「財産管理委任契約」

(※写真=PIXTA)
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任意後見の前段階にある契約として、財産管理委任契約があります。財産管理委任契約は任意後見契約と同時に設定することが多く、

 

●第1章として財産管理委任契約

●第2章として任意後見契約

 

との構成になります。

 

第2章の任意後見契約が発効すると同時に、自動的に第1章の財産管理委任契約は終了します。

 

第1章の財産管理委任契約から、第2章の任意後見契約に移行するので「移行型」などと呼ばれています。

 

任意後見契約は、判断能力が低下した場合に備えた契約です。まだ判断能力のある段階では、第2章の任意後見契約は効力を発せず、第1章の「委任契約」により対処することになります。このような通常の委任契約を、任意後見契約と組み合わせて締結する場合が多いのです。

 

2-1.任意後見契約の現状は…

任意後見契約は、判断能力が衰えた場合に備えるものなので、判断能力が低下しない限り、その効力を発動することがありません。しかし人間は加齢により、判断能力はしっかりしていても、身体的能力の衰えはどうしようもなく、だんだん自分で自分のことができなくない状況の方もいます。極端な話、寝たきりになってしまえば、いくら自分の預貯金があっても、お金を引き出すこともできません。

 

そのような事態に対処するためには、判断能力が衰えた場合にのみ発動される任意後見契約だけでは不十分であり、通常の委任契約と、任意後見契約の両方を組み合わせて締結しておけば、どちらの事態にも対処できます。そして、判断能力が衰えた場合には、通常の委任契約に基づく事務処理から、任意後見契約へ移行することになります。ただ、現状でこの「移行型」の任意後見契約は、決して広く用いられているとはいえません。

 

そもそも任意後見契約の存在自体が広く知られていないこともありますし、あまり代理人設定は協力的ではない銀行も多くみられます。

 

「公正証書は分かりますが、私ども銀行の規則が、ルールが、…」などと言われ、代理人設定に消極的な銀行も多いのが現状です。代理人設定に応じてくれたとしても、本人の来店などを求められることも多いです。

 

他方、この委任契約は、裁判所の監督下にある任意後見人、成年後見人と違い、管理監督をする者が存在しません。このため銀行としても取引の安全性を重んじる意味もあるため、上記のような対応も一概に批判はできません。しかし、この代理人設定を使えれば、財産管理、また浪費なども避けられるケースも多いだけに、より幅広い利用が今後求められるのではないでしょうか。

 

2-2.任意後見制度の有益な面

また第1章の委任契約から切り替わる第2章の任意後見制度も、当初に予想されていたほどには進んでいません。利用が進んでいない理由としては、

 

①そもそも任意後見契約という制度を知らない。

②任意後見契約は、必ず公正証書で交わす必要がある。

③任意後見人の他に任意後見監督人(監視役)の選任が必要で、この負担がある。

 

という点でしょうか。

 

②について、公正証書作成の負担はやむを得ないですし、そもそも親子とは言え、一緒に公証役場に行くという時点でハードルの高さを感じる人もいるでしょう。

 

また③については、監督人の報酬は財産額にもよりますが、一般的な財産額の場合、月額1万5,000円程度です。仮に任意後見人を親族が無償で行うような場合、むしろ通常の成年後見制度よりも費用負担が少ないケースも考えられます。予め確実に、自分の親などの後見人に親族がなれる点で、やはり有益な面も大きいと言えます。

3.家族信託(民事信託)について

(※写真=PIXTA)
(※写真=PIXTA)

 

最近、家族信託(民事信託)について、耳にされる方も多いかと思います。(以下、用語を統一するために家族信託と呼ぶことにします)

 

家族信託とは、本人(委託者)の財産を家族(受託者)に移転して、受託者が本人(受益者)のための財産を管理する契約です。つまり家族信託とは、自分で財産の管理をすることができなくなった場合に備えて、その財産を管理する権限を家族に移すという契約です。財産の管理とは、自宅や賃貸物件の管理のほか、その財産の処分(売却)なども含まれます。

 

家族信託の契約形態は少し難しいので、所有して運用するという概念(所有権)を、財産から利益を得る「財産権」と、「管理・処分権」に分離している、と理解してもらうといいかもしれません。家族信託は、もちろん銀行預金などの金融資産に用いることもできますが、やはり最大限に効果が発揮されるのは、不動産についての家族信託の設定といえるのではないでしょうか。

 

3-1.「家族信託」は将来の認知症に備える対策

認知症になり、最も困ることが「不動産の売却をしたくてもできない」というケースが想定されます。不動産の所有者である親が事理弁識能力のない段階になってしまうと、親名義の土地を売却したくてもできない、という状況に陥ってしまうことがあります。

 

家族信託の場合、「所有権」は親の名義(=委託者)のまま、「管理・処分権」のみを子どもら(=受託者)に移すことが可能です。家族信託が不動産と相性がいいのは、これらの信託に関する事項を、不動産登記簿の謄本にそのまま登記することができる点です。不動産登記簿は誰でも取得するとこが可能ですので、取引にかかわる人は全員、信託に関する登記がなされた不動産は全員、受託者である子どもにこの不動産の管理権限があることが理解できます。

 

例えば、親とその子どもが、親の所有するアパート兼自宅(一部が賃貸併用となっている自宅)について家族信託契約を締結した場合を想定します。

 

この場合、自宅の所有者である親は、家族信託締結後も引き続きその財産の所有者であるため、「所有権」は親のものとなります。またアパート部分の家賃収入についても、対価を受け取る権利は親にありますので、親の所得のままです。しかしながら信託契約により「管理・処分権」のみを子ども(=受託者)にしているため、将来的に親が認知症になってしまった後に、不動産の修繕を行ったり、売却したりするのは「子ども」が主体となります。仮に売却をしたとしても、その売却対価を受け取るのは所有者である「親」となります。

 

さらに言えば、不動産を売却した対価の受益者は親ですが、この対価はあくまで信託財産であった「不動産」が「金銭」に置き換わったものですので、対価である金銭は「信託財産」でもあります。この対価である金銭の「管理権」は子どもが有することになり、子どもの信託口座などで親のために管理をしたり、使ったりしていくことになります。

 

いずれにしても、こうした将来の認知症に備えるような対策は、親の判断能力がしっかりしているうちに任意後見契約なり、家族信託なりの契約を交わしていないと、利用は難しくなります。どんな有益な手段でも、対応が後手に回ってしまうと手遅れになってしまいます。このため認知症対策にしても、その他の相続対策にしても早め早めの対処、専門家への相談が有益なのは言うまでもありません。

 

 

近藤 崇(司法書士法人近藤事務所 代表司法書士)

 

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本記事は、株式会社クレディセゾンが運営する『セゾンのくらし大研究』のコラムより、一部編集のうえ転載したものです。