おひとりさまの相続「きょうだいがいないから簡単」の大誤算…超高齢社会に潜む「親子共倒れリスク」【弁護士が解説】

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山村 暢彦
おひとりさまの相続「きょうだいがいないから簡単」の大誤算…超高齢社会に潜む「親子共倒れリスク」【弁護士が解説】
(※画像はイメージです/PIXTA)

もめる相手がいない、ひとりっ子の相続。さらに配偶者も子どももいない独身者なら、相続は非常に簡単で気楽な手続きに思えます。しかし実は、現代日本ならではの問題が潜んでいるのです。「ひとりっ子の相続」のデメリットやトラブルについて、相続問題に詳しい弁護士が解説します。

「ひとりっ子の相続は揉めにくい」というのは間違い!?

(※写真=PIXTA)
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「ひとりっ子しかいない相続は、揉めづらい」。相続の現場でよく聞かれる話です。弁護士である筆者も、一般論としては確かにその通りだと考えています。

 

相続トラブルの典型は、財産の分配をめぐる争いです。一緒に育った兄弟姉妹も、大人になればそれぞれ独立して別世帯になりますが、それに伴い、それぞれ異なる事情が生じてきます。そこに相続が発生すると大変です。分割が容易な金融資産ならいいですが、分配しづらい不動産、とくに債務の処理の必要がある収益不動産が含まれると、揉め事に発展するリスクが高まります。

 

では、ひとりっ子の相続なら平穏かというと、実はそうとも限りません。

 

相続と聞くと、多くの方は「高齢の両親から、若くて健康な子ども世代への財産の承継」をイメージするかもしれませんが、超高齢社会の日本では、親世代が80~90代、子どもが60歳前後というケースが非常に多く、また、60歳前後で重篤な疾患を抱え、高齢の両親と同様、ひとりの生活がすでに困難になっている方も珍しくありません。

 

つまり、ひとりっ子かどうか以前に、相続人の立場にありながら、処理すべき税金や登記手続等に加え、お墓の管理等々に手が回らないという事態になってしまうのです。

ひとりっ子の相続で陥りやすい困った事例

(※写真=PIXTA)
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実際にどのようなことが起こるのか、具体例を見ていきましょう。

 

◆疾患のため、子どもに相続手続を行う体力がない場合

相続人である子どもが、病気等で入院するなどして相続手続を行う力がない場合は、身近な親族等にサポートしてもらうか、もしくは外部の専門家に依頼することになります。

 

意思能力がはっきりしていれば、外部への依頼費用が多少高くなるという懸念はありますが、とりあえずは問題ないといえるでしょう。ただし、それでも手を貸してくれる親族の方がいないと、困るケースもあります。たとえば、ご両親が亡くなった実家に行き、通帳等の財産関係の資料を探さなければならない場合です。

 

このようなケースでは、仮に外部の専門家に依頼するにしろ、親族等の身内の方に立ち会ってもらわないと、盗難等を疑われるリスクが残ることから、専門家も非常にやりにくくなります。

 

とはいえ、想定されるのは税金の処理・相続登記手続・税金の支払いに必要な不動産の売却程度なので、多少割高になったとしても手続きは可能でしょう。

 

◆病気の影響で、子どもの認知能力に不安がある場合

高齢な両親よりも、子どものほうの認知能力に不安があるというケースもあります。筆者には医療関係の知識はありませんが、これまで取り扱ってきた事例から、60歳前後を境に大きな病気等を経験し、認知症や、それに近い症状になっている方が多くいらっしゃると実感しています。

 

このケースでは、ご両親亡きあと、どなたがご両親の相続手続きに対応するのかという問題が出てきます。

 

おじ・おば・いとこなどの4親等以内のご親族の方が身近にいれば、「法定後見人」という制度を利用して、家庭裁判所に後見等開始の申立てを行い、後見人選任がなされれば、財産関係の手続きを代行することは可能です。

 

※ 認知症の方に代わり、裁判所を通して後見人という代理人を立て、財産関係を処理してもらう制度

 

意思能力を大きく失うまでには至っておらず、ある程度ご自身で判断できる場合は、「保佐人」「補助人」という、後見人よりも権限が小さいサポート役の代理人を立てるケースもあります。

 

ちなみに、上記のようなケースでトラブルになりやすいのが、ひとりっ子のお子さんを内縁の方がお世話している場合です。正式に法的な手続きを踏もうにも権限がなく、後見人等を選任する等の手続きを取ることができません。

 

また、まれではありますが、近所に住む友人、仕事上でつながりのあった知人等が、事実上の代理人としてお世話しているケースもあります。これらの方も法的には親族ではないので、後見人等の制度を利用することができません。

 

これまで、本人の意思能力が低下したあとに選任させる法定後見について説明してきました。一方で、本人の意思能力が低下する前に、本人の意思に基づき、自身の財産管理などを任せる契約を結ぶ、任意後見制度もあります。

相続に伴う各種手続き「遺言書」で抜かりなく

(※写真=PIXTA)
(※写真=PIXTA)

 

超高齢社会のなか、ご両親と相続人のお子さんのいずれも、体調や意思能力に問題を抱えているという状況は、本当に増えてきました。

 

対策として有効なのは、やはり遺言書でしょう。「まだ若いのに…」と思われるかもしれませんが、とくに50~60歳ぐらいの間に、一度は遺言書の作成を検討してみても良いかもしれません。

 

そのためには、まずご自分の家族関係、遺産承継する予定のある先祖代々の土地、お墓の管理等に加え、事業や不動産投資等の債務の有無、相続に関係する親族の所在、外国居住者の存在等を確認しましょう。それらを踏まえたうえで、どのような対策をとり、遺言書を作成するのかを検討します。

 

その場合、遺言書に遺産分割の方法を記すだけはなく、遺産承継先を複数指定し、なおかつ遺言執行者を指定し、代理として対応してくれる人の選任まで手を尽くしておきましょう。そうすれば、「手続きが行き詰り、親族・関係者が弱り果てる」といったリスクを低減できます。

 

◆おわりに

今回とりあげた「ひとりっ子の相続問題」は、高齢化社会における意外な盲点だといえます。ひとりっ子の方で、代々伝わる財産を親族に承継したいと考えている場合は、早い段階で相続対策をおこなう必要があるといえるでしょう。

 

 

山村 暢彦(山村法律事務所 代表弁護士)

 

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本記事は、株式会社クレディセゾンが運営する『セゾンのくらし大研究』のコラムより、一部編集のうえ転載したものです。