出不精・倹約家だったが…
60歳で定年退職を迎えたAさんですが、在職中に人間関係に疲れてしまい、仕事を続ける気も起きなかったため、再雇用契約をせずにそのままリタイアしました。定年退職当時は、約1,500万円の退職金とほかにも1,000万円ほどの貯蓄等がありました。
家族は私立大学3年生の息子と3歳下のパート勤めの妻と住宅ローンが70歳まで残る持ち家に3人で暮らしています。
なお、離れた田舎に80代の母親がまだ一人で暮らしていますが、亡くなった父親は自営業(定食屋)だったため、遺族年金もなく、わずかな貯蓄と国民年金で暮らしています。
まとまったお金もあったことからAさんは「もし、なにかいい仕事があったらやってみよう」程度にしか考えておらず、パートに出ている奥さんに疎まれながらも自宅でダラダラ過ごしていました。
あまり外へ出ないAさんですから、お金もあまり使いません。どちらかというと身の回りのものにお金を使うタイプでなく倹約家ですが、年金受給まではまだ何年もありますし、生活のために貯金を取り崩す一方でした。
定年退職後は、古くなったキッチンをリフォームしたり、家電も故障で買い替えたりと、臨時で大きなお金も出ていったため、だんだんとお金についても気になってきました。
奥さんに言われてハローワークに相談に行きましたが、なかなか希望の仕事もありません。奥さんの目もうるさいので、一日だけ倉庫でのアルバイトをしてみましたが、一日中動きっぱなしの仕事は、デスクワークしかしたことのないAさんにとっては苦痛でした。さらに、息子のような若い年齢の人間から指示されての仕事は、Aさんにとってはあまり気分のいいものでもありません。
「年金がもらえるようになればなんとかなるだろう」と将来の月16万円の年金をあてにして、結局はアルバイトも続かず、Aさんは引きこもってしまいます。
そんな生活を5年間続けていたAさんですが、生きがいもこれといってなく、あるころから漠然とした不安感にさいなまれるようになってしまいます。運動も特にはしていませんので、足腰も弱くなり、ある日、立ち眩みを起こしたときに転倒して骨折してしまいます。骨折だけでも大変ですが、立ち眩みの原因が「うつ病」と診断され、Aさんは長い療養に入ることに。
さらに悪いことに、離れた実家に住む母親も体調を崩して入院してしまい、高齢のため、入院期間も長引いてしまいましたAさん自身は医療保険に加入していましたが、母親の保険は80歳で切れてしまっていたため、保険金が出ず、病院代の援助も行う羽目になってしまいました。入院は医療費だけでなく、食費や衣類などいろいろなお金が必要になります。
キッチンリフォームや住宅ローンの返済に子どもの学費、自分と母親の治療費と、定年退職後のわずか数年で貯蓄はほとんどなくなり、Aさんの家計は破綻の一途を辿ることになってしまいました。