(※写真はイメージです/PIXTA)

少子高齢化の進展や、医療技術の発展等の要因から、医療分野の規制改革が検討され、進んでいます。一方で、医師も時代の流れを読みながら、自身のキャリア形成や幸福を考え、働き方を模索しています。現状の問題点と今後の課題を考察します。本連載は、コスモス薬品Webサイトからの転載記事です。

規制緩和で目指す「医療費圧縮」…実現までの厳しい道のり

規制緩和の一端として、コロナ禍を機に周知された「オンライン診療」がありますが、これには非常によい面がある一方で、一度もリアルでお会いしていない患者さまの場合、できる検査が限られてしまうといった課題も残ります。

 

規制緩和にはメリット・デメリットはあるものの、患者さんにとって選択肢が広がるというのはいいことです。しかし、医師ならご承知の通り、例えばオンライン診療には保険点数がまったくついていないため、オンライン診療はそこまで大きく広がっていません。

 

このような点数の付け方をしていては、患者さまの需要があり、医師がそれに応えたいと思っていても、なかなか浸透しないでしょう。いくら希望を掲げても、医療現場の実情とかけ離れては、実現は容易ではありません。

 

本当に広めようと思うのなら、保険点数をしっかり付け直すべきなのですが、財源が限られている以上、今度はどこかを減らす必要性が生じます。この点を解決しない限り、なかなか上手くは回らないといえます。

 

現状の医療については、各方面からさまざまな批判や意見がありますが、それでも国民皆保険制度は素晴らしいものであり、医療従事者のひとりとして、筆者は非常にありがたいと思っています。

 

しかしその反面、膨張を続ける医療費についてもしっかり考える必要があるといえます。これまで15年ほど開業医をしてきた筆者の経験から申し上げると、どこまで大胆な規制緩和を行えるかが、問題解決に迫るポイントとなるでしょう。しかし、既得権益を守るため改革に反対する層も存在することから、状況を動かすのは簡単ではなく、すぐには変わらないのではないかと思います。

医師たちが模索する、キャリア形成・幸福への道筋

前述したオンライン診療ですが、この普及・浸透を目指す理由のひとつに、医師の偏在化の問題もあるといえます。筆者の個人的な意見ですが、一般的な会社員の方々にさらに輪をかけて、医師は都市部の居住にこだわる傾向があると思われます。考えられる理由は3つです。

 

一つ目は「子どもの教育環境」です。医師の家庭では、よい教育は、偏差値の高い学校に行かせることだと考えられている節があります。そのため、どうしても進学先の選択は都市部に偏り、塾ひとつをとっても、都市部のほうが選択肢が多いと思われるようです。個人的には、偏差値の高い学校に行くことが受験の目的になってしまうことには賛同できませんが…。

 

二つ目は、「よりよいサービスを受けるための環境」を求める点です。それなりの資産がある方の場合、衣食住に一定以上のクオリティを求めることが多く、また、お金をかけてさまざまな楽しみを享受することが可能です。当然ですが、地方より都市部のほうがこれらの選択肢が多くなります。よりよいサービスを受けられる環境に暮したい、家族を住まわせたいと思うことも理由なのではないかと思われます。

 

三つ目は、「環境による医師同士から得られる情報の差」です。医師がスキルの向上やキャリアアップを目指すとき、周囲に情報共有・情報交換できる人が少なければ、得られる情報も限られてきます。いわゆる大病院にいるほうが、多くの医師とコミュニケーションをとることができ、情報も得やすいといえます。極端な話、過疎地に1人きりで身を置くような状況では、情報のキャッチアップやアップデートにも問題が出てきてしまいます。

 

日本は人口密集地と過疎地に二極化しており、現実的に考えるなら、過疎の進んだエリアにインフラを供給し続けることは、いずれできなくなるでしょう。医療機関だけでなく、交番や郵便局、商店にいたるまで、すべてに当てはまる問題です。

 

クリニックの経営目線で見るならば、地方の病院は医師集めに苦労し、逆に都会の病院の方が無理なく採用しやすくなると思われます。

 

東京や大阪等、過密化が進む都市のクリニックの場合、医師の採用を容易にするためには、クリニック自体の収支と経営が安定していることが重要です。

 

また、地域に根差した、地域から信頼される病院づくりの重要性は、これまで以上に広く認識されています。そこには健全な資本主義が作用すると思われますが、クリニックの経営者側からすると、病院の偏在化が自身のクリニックに及ぼす影響とその対応策は、大きな課題なのです。

 

 

梅岡比俊
医療法人 梅華会 理事長