就職後、多くの人は40年近くサラリーマンとして頑張り、そして定年を迎えます。「老後はふたりで……」と定年後の生活に思いを馳せる夫婦も多いでしょう。しかし、パートナーがひそかに離婚を考えているケースもあるようです。本記事では、Tさんの事例とともに、熟年離婚のお金のリスクについてFP dream代表FPの藤原洋子氏が解説します。
「あなた、今までありがとう。」年収2,000万円の55歳エリートサラリーマン…結婚26年、全然気が付かなかった“50歳妻の大きな変化”に絶句【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

離婚するときに決めること

離婚するときに考えておくべきことは、以下になります。

 

親権者

「親権」子どもの利益のために、監護や教育を行ったり、子どもの財産を管理したりする権限・義務で、子どもの利益にために用いる行為とされています。父母が離婚する際の親権者は、まずは父母の話し合いによって決めるとされています。

 

養育費

子供を養育するうえで必要になる費用のことです。

 

親子交流(面会交流)

子供と離れて生活する両親の一方が、子どもと継続的に会ったり、電話や手紙などを使って連絡を取り合うことをいいます。

 

財産分与

夫婦が協力して生活する間に築いた財産を公平にわけることを基本として決めます。

 

年金分割

夫婦の婚姻期間中の厚生年金の保険料納付額に応じた厚生年金額を分割して、お互いが自分の年金とすることとなる制度です。婚姻期間中の報酬額の記録が分割されることになります。

 

妻の生命保険の契約者・受取人の変更

現在Tさんが契約者、妻Kさんが被保険者、Tさんが受取人となっている生命保険に加入しています。離婚後は、「契約者を妻Kさん、受取人を子ども」に変更する必要があります。生命保険の保険料の支払いが発生します。

 

妻の年金・健康保険加入

厚生年金に加入している第2号被保険者に扶養され、一定の要件を満たす方を第3号被保険者といいます。

 

現在は国民年金の第3号被保険者である妻Kさんは、保険料を納める必要はありません。離婚後は第1号被保険者となり、国民年金保険料の納付が必要になります。また、国民健康保険への加入も必要です。

離婚による妻Kさんへの経済的影響

妻Kさんは、子ども達3人と現在のマンションに残り、Tさんに出て行ってもらいたいと考えていました。

 

妻Kんが自宅に残るとすれば、結婚してからの貯蓄2,500万円の2分の1である1,250万円を受け取り、住宅ローンの残債1,700万円は支払っていかなければならなくなります。ただし、夫の不貞の証拠があれば、慰謝料を請求できるため、まとまった金額を上乗せで受け取れる可能性はあります。

 

Kさんが、これからも厚生年金に加入しなければ、65歳以降に受け取れる年金額は、月に7.8万円です。年金分割を行って、Tさんの厚生年金額を妻Kさんに分割すると、ざっくりとした計算ですが、妻Kさんの年金額は12万円になります。

 

「これでは……私が経済的に自立できないと、住む家はあっても生活はできませんね……。年金額も老後を1人で暮らすとすれば厳しい額だと思います」

 

妻Kさんは、真剣な顔をされて出ていきました。それからKさんは正社員として雇ってもらえる就職先を見つけ、働き始めるとともに、夫の不貞の証拠を集めることにしました。これにより、老後までの安定的な収入を確保でき、老後は年金に厚生年金が上乗せで受給できます。すべての準備が整ったのは、相談から5年が経過したところでした。

 

ついにこの時がきた…!

「あなた、今までありがとう。離婚してください」

 

Kさんは、夫に切り出します。夫Tさんは大人しく、従順だったKさんからの突然の発言に絶句します。妻が働き始めたときも「子どもも手が離れてきて、時間ができたから」というKさんの言葉を鵜呑みにしていたのです。

 

Kさんはゆっくり焦らず着実にこの5年間準備を重ねてきましたが、離婚すればTさんは一人。いつまでも健康でいられるかどうかはわかりませんし、「子どもや孫に囲まれた楽しい老後」はなく、侘しい老後が待っているかもしれません。

 

Kさんは夫の変化にいち早く気が付きましたが、Tさんはこの5年間妻の変化にまったく気が付くことができませんでした。この違いがふたりの老後の明暗をわける可能性は大いにあるでしょう。

 

 

藤原 洋子

FP dream

代表FP