サラリーマンとして新卒から定年退職まで勤め上げた場合、大企業で2,000万円、中小企業で1,000万円程度も支給されるという退職金。日本の企業のおよそ9割がこの制度を導入しています。大半の人はこれを「預貯金」に回すようですが、なかには「賢く運用しましょう」という金融機関の誘いに乗って、よく理解できない商品に資金を投じてしまう人も。今回は、定年退職者がセールスを受けることが多い「退職金運用プラン」についてみていきます。
「普通預金よりは好条件」にもみえるが…銀行が“投資デビュー”の元会社員に提案する〈退職金運用プラン〉の落とし穴 (※写真はイメージです/PIXTA)

元本割れの原因は「金融機関のせい」?

この調査によると「投資を始めたきっかけ」として、およそ5人に1人が「金融機関に勧められたから」と回答しています。退職金を受け取った直後、懐に余裕があるタイミングで「賢く運用してみませんか」と、いつもの銀行でセールスを受ければ「話だけ聞いてみるか」と思うのは自然なこと。

 

そんなとき銀行は、「退職金運用プラン」などといって、たとえば「年率6%」というような定期預金を提案してくるかもしれません。今日の超低金利を考えれば、かなりの好条件にみえます。金利が6%だった場合、定期預金に1,000万円預け入れたとしたら1年後に受け取れる利息は税引前で60万円。

 

ただし多くの場合、この高い金利を受け取れる期間は「3ヵ月」程度に限定されていることに注意が必要です。つまり、仮に金利6%の商品に1,000万円を投じた場合、実際の手取りは6%の3ヵ月分で15万円(税前)ということになります。

 

「15万円も貰えるなら、普通預金よりはるかに好条件じゃないか」と飛びつく前に、もう1つ認識しておくべきポイントがあります。

 

こうした商品では、定期預金と同額かそれ以上の投資信託・外貨定期預金を買い付けることが条件になっているのです。つまり、定期預金に1,000万円を預け入れるのであれば、投資信託や外貨定期預金も同じく1,000万円(以上)、合計で2,000万円を投じる必要があるということ。投資信託も外貨も買付時にコストが発生する上、日々評価額が変動するため市況によっては元本割れに至ることも十分に起こり得ます。

 

金融広報中央委員会『令和4年家計の金融行動に関する世論調査』によると、「元本割れ」の経験をしたことがある人は、60代で43.0%、70代では46.4%に上ります。その経験の受け止め方として、大半は「自分の予想が外れたのだから仕方ない」(60代:72.4%、70代:75.5%)と考えている一方、「金融機関が十分に説明しなかったため」(60代:6.6%、70代:4.8%)、「著しい誤解を招く勧誘を金融機関から受けたため」(60代:4.6%、70代:3.2%)と、「金融機関のせいで損失を被った」と考える人も一定数いることがわかります。

 

ただ、たとえば投資信託の勧誘時、金融機関には「買付時手数料」や「価格変動リスク」などについて説明することが法律で義務付けられていますから、悪質な勧誘があった場合を除き、損失が出たときに「知らなかった」「聞いていない」と金融機関のせいにしようとも、事態が好転することはありません。

 

投資の鉄則は、「わからないものは買わない」。銀行が勧める商品だから安全という思い込みは捨て、投資家自身が自らの責任で、契約の是非を判断しなければならないのです。大切な老後資金である退職金を元手にした投資家デビューはあまりにリスキーですから、安定収入のある現役時代のうちから投資に慣れ親しみ、リテラシーを高めておくことが重要です。