サラリーマンとして新卒から定年退職まで勤め上げた場合、大企業で2,000万円、中小企業で1,000万円程度も支給されるという退職金。日本の企業のおよそ9割がこの制度を導入しています。大半の人はこれを「預貯金」に回すようですが、なかには「賢く運用しましょう」という金融機関の誘いに乗って、よく理解できない商品に資金を投じてしまう人も。今回は、定年退職者がセールスを受けることが多い「退職金運用プラン」についてみていきます。
「普通預金よりは好条件」にもみえるが…銀行が“投資デビュー”の元会社員に提案する〈退職金運用プラン〉の落とし穴 (※写真はイメージです/PIXTA)

大企業の退職金は2,200万円超…もっともメジャーな使い道は「貯蓄」

サラリーマンの大半は60歳で定年を迎え、引退するか、働き続けるかの選択を迫られます。

 

近年は定年後も働ける環境を備えた会社が増え、実際9割近いサラリーマンが60歳以降も働き続けるという選択をしています。多くの場合、定年後の雇用形態は嘱託社員や契約社員へと変更になり、現役時代に比べて収入は大きくダウンしますから、現役引退後の生活を支える「年金」と「退職金」に期待をかける人は多いのではないでしょうか。

 

まずは平均的な年金額からみていきます。現役時代、夫婦ともに平均的な給与を受け取っていた共働き世帯の場合、仮に満額の国民年金を受給できるとすると、厚生年金部分は夫が約10万3,000円、妻が約7万4,000円ほどとなり、夫婦で月31万円前後を手にすることになります。しかしこれはあくまでも今日の年金受給者の話。2040年半ばには2割ほど年金が目減りするとの試算もあり、「月31万円」で夫婦の老後をシミュレーションするのは早計かもしれません。

 

そこで、大きな期待がかかるのが退職金。退職金と一口にいっても、その受け取り方によって、以下のようにいくつかの種類に分かれています。

 

①退職一時金制度:従業員の退職時に一括で退職金を支給する

②確定給付企業年金制度:従業員の退職後、一定期間に渡って退職金(年金)を支給する

③企業型確定拠出年金制度:企業が積み立てた掛金を従業員が年金資金として運用する

④中小企業退職金共済:従業員が退職後、積み立てた退職金が共済機構から支払われる

 

「退職金」と聞いて多くの人がイメージするのは①の一時金でしょう。厚生労働省『令和5年就労条件総合調査』によれば、大企業で退職給付制度を採用している企業の割合は90.1%。日本経済団体連合会『2021年9月度 退職金・年金に関する実態調査結果』で支給額についてみてみると、大企業・勤続38年の平均で2,243万円。一方、中小企業の場合は大卒の定年退職で1,091.8万円で大企業の半分程度ほど(東京都産業労働局『中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)』より)。

 

実際に、1,000万~2,000万円もの一時金を受け取った元サラリーマンは、そのお金をどんな風に使っているのでしょうか。一般社団法人 投資信託協会が実施した『60歳代以上の投資信託等に関するアンケート調査(2021年(令和3年))』によると、もっとも多かった使い道は「貯蓄」(59.3%)。ほかには「日常生活費への充当」(25.6%)や「住宅ローンの返済」(20.8%)などが上位に並びました。

 

そのほかに目立ったのが、「資産運用のための金融商品の購入」という使い道。「初めて投資した年齢」として17.8%の人が「60代」と回答していることからも、退職金の受給をきっかけに投資デビューを果たす人が多いことがうかがいしれます。