令和5年12月31日までは、子や孫の住宅資金の贈与を1,000万円まで非課税とする制度を活用することができます。これを利用し、多くの親世代が子や孫の住宅購入のために贈与を行っていますが、事前によく考えておかなければ、あとになって後悔するケースというも……。本記事では、Aさんの事例とともに、住宅資金の贈与の注意点について、株式会社アイポス代表の森拓哉CFPが解説します。
一人息子に甘々の〈年金30万円の60代夫婦〉1,000万円を贈与も…「嫁と見知らぬ男」に渡ってしまう悲しすぎるワケ【CFPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

幸せな暮らしのはずが…1年後、まさかの展開に

Bさん夫妻は両親の気持ちを汲み取って、Aさん夫妻の近くでマイホームを購入することを決め、2,900万円の住宅ローンを組みました。金融機関の審査も無事に通り、夢のマイホームを持つことになったのです。

 

ところが、マイホームで暮らし始めて1年後、幸せな暮らしが一瞬で終わってしまうことが発覚します。一人息子であるBさんに、突然の病魔が襲いかかったのです。

 

食欲がなくなり、背中の痛みや腹痛を訴え始めたBさん。原因のはっきりとわからない日々が1ヵ月ほど過ぎ、辛い日々を送っていましたが……精密検査を経て出された診断名は「膵臓がん」。余命6ヵ月という残酷なものでした。

 

Bさんはもちろん、なんとか治療する道を探しました。しかし、ほとんど治療も受けることができず、あっという間に旅立ってしまいます。

 

30代で亡くなる可能性は決して高いものではありませんが、侮れるほど低くもありません。令和4年の厚生労働省の人口動態統計によると、30代~40代で命を落とす人の数は年間2万8,335人、そのうち悪性新生物によるものが約3割を占めています。

 

少し古いデータになりますが、平成26年の厚生労働省の患者調査および簡易生命表のデータをもとに算出すると、35歳の男性が、その後の20年以内に死亡する確率は26.8人に1人、3大疾病になる確率は11.3人に1人と決して低くはありません。

 

筆者の回りでもここ数年のあいだに、若くして突然にがんなどの病気で他界する方が数名おり、他人ごとではないと感じます。ある日突然、30代~40代の働き盛りの世代がこの世を去るのは珍しいことではないのです。

 

Aさん夫妻にとっても、Bさんの突然の他界は晴天の霹靂でした。一人息子であるBさんを失ったことの悲しみに暮れるなか、Aさん夫妻に追い打ちをかけるような事態が起こります。

 

1,000万円もの資金を贈与して建てたBさんのマイホームですが、Bさんの法定相続人はBさんの妻と生まれたばかりの孫の2人でした。Aさん夫妻には相続する権利がないため、Bさんのマイホームの名義はBさんの妻のものとなります。

 

住宅ローンには団体信用生命保険がかけられていたため、Bさんの妻は、ご自分の預貯金は一切使うことなく、無借金のマイホームを手にしました。

 

不測の事態への備えとしては、Bさんの妻にとっては、不幸中の幸いといえる状況ですが、Aさん夫妻からすると大切な息子に加えて、想いをこめた1,000万円が手元から離れて複雑な気持ちになってしまったのでした。

 

これだけでも辛いことなのですが、Bさんを失ってからというもの、Aさん夫妻はBさん宅に行きづらくなってしまいました。

 

そうかといって、Bさんの妻がAさん夫妻を気にかけて、孫を連れて訪れてくれるかというと、死後数年のうちこそ年に数回訪れることはあったものの、徐々にその頻度は少くなり、近ごろはBさん宅に来てくれることもなくなりました。

 

それどころか、Aさん夫妻はBさん宅に入っていく、30代~40代と思われる見知らぬ男性の姿を度々見かけるように。複雑な境地はますます深まるのですが、なにができるかというと、ただ寂しさを堪えて暮らしていくのみです。

 

「あの男と嫁が再婚したら……」

 

これからの老後を考えて、Bさんたち息子夫婦にも老後の生活を支えてもらいたいと贈与した1,000万円。近くで暮らし始めてくれたところまではよかったのですが、その後の不幸によって、本当にその選択が正しかったのかどうか、Aさん夫妻はわからなくなってしまったのでした。